朝目が覚めたら頭がガンガンして痛かった。思わず眉間に皺を寄せる。
多分沢山泣いたからだ。なんか目も重いし。しかも恐らく泣きつかれて眠った口だ。
冷静になって考えてみれば昨日のあたしはおかしかった。
寂しくて泣きたくて、財前を想った。泣く程好きってなんだよ。意味わかんない。
「…は?」
体を起こすと、いつかのデジャヴ。
ベッドに凭れて毛布にくるまる財前がいた。
帰ってなかったんだ。こんな寒いとこで毛布だけかけて寝てないで帰れば良かったのに。
そしたら簡単に元に戻れた気がする。財前が無駄に優しいせいであたしは苦しいっていうのに。
「何なの、ほんと」
ベッドから出て寝室に財前を残したままリビングに行く。
朝6時。
休日のあたしの起床時間にしては早い。冬休みに入ってからはずっと8時に起きるのが常だ。
テレビを付けると昨日のイルミネーションなんかを映していて、アナウンサーがそれにコメントをしてる。それを聞いてそういえば昨日はクリスマスだったな、なんて頷く。
毎年一人のクリスマス。
今年はテニス部の先輩、それから想い人の財前と過ごした。幸せだったかもしれない。
初めてクリスマスが楽しいなんて感じた。
幼稚園の頃友達がクリスマスの話をする度に羨ましいと思ってた。自分も普通にクリスマスがしたかったんだ。
キラキラ光るイルミネーションに甘いクリスマスケーキ、サンタが置いていくプレゼントにはしゃぎたかったんだ。
熱いコーヒーを入れてソファーに座る。
普段はブラックで飲むけど今日は砂糖とミルクを入れて甘くした。
昔を思い出して寂しくなったから。甘いものはそんな気持ちを消し去ってくれる。
「名字っ!!」
バタンと音がして呼ばれたのに振り返る。
財前が慌てた顔であたしを見て、それから深く息を吐いた。
「何、慌てて。あ、コーヒーいる?」
「いや、何もない。コーヒーもらうわ」
「そ?ご飯パンでい?」
「あぁ」
コーヒーを入れて手渡した。ブラックでいいらしくそのまま飲む。
あたしはキッチンに入って朝ご飯を作る。とは言っても適当だけど。昨日買った食材でトースト、スクランブルエッグ、ベーコン、サラダ、コーンスープを作ってテーブルに並べる。
冷蔵庫にこんなに食材があるのは不思議な感覚だ。いつもその日分しか買わないから。
「どーぞ。食べれなくはないと思う」
「あぁ、おおきに」
席について向かい合って食べる朝食。変な光景だ。
普段朝ご飯すらめったに食べないから尚更。
食べ終わって片付けをした後、部活があるらしい財前はこのまま学校に行くと言った。荷物を持って玄関に行く財前を追う。
「一人で泣くなよ」
「…うん」
「なんや今の間は」
「もう泣かないし。早くしないと遅れる」
既に泣きそうなのを気づかれないようにつっけんどんに言う。
早く行け、あたしが泣く前に。
「ほな」
「うん。ありがと。部活頑張って」
財前が出てって鍵を閉める。
ガチャンという音で緊張の糸が切れて涙が視界を歪める。
楽しいクリスマスは今年限り。
これ以上財前を想うのもやめる。冬休み中に元のあたしに戻る、絶対に。
財前とは今の距離のままいれればいい。友達、それでいい。それでも財前にとって女友達は多分特別だから。
それからあたしは冬休みが開けるまで財前とは会うこともないし、連絡もしなかった。
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