「名字さん、いらっしゃい」

「名字!?」

「あー、さっきの子や!!」



未知の世界、男子テニス部の部室では、笑顔の部長と驚く謙也さんとさっきの先輩が声を発した。

財前はずかずかと部室に入っていき、あたしはドア付近で立ち止まる。中には他にも知らない顔が何人かいた。



「何で名字が?」

「財前に誘拐されたんです」

「いやーん、光君ったら」

「先輩キモい。名字も嘘吐くなや」



いや、強ち嘘でもないと思うんだけど。誘拐ではないけどいきなり連れてきたことに偽りはない。



「とりあえず寒いから中入りや」

「あ、どーも」



部長に促されて室内に入った。男しかいないにしてはわりと綺麗。真ん中にテーブルがあってそこにお菓子やらジュースが置いてある。



「ねぇ〜名前何て言うん?」



財前と謙也さんの間に座っていたのに、さっきの先輩が謙也さんを押しのけてそこに座った。



「名字名前です。財前の、クラスメート」



友達、というのはなんとなく憚られた。財前の中であたしはそんな位置にいないかもしれないと思ったから。

勝手な思い込みでものを言うのはよくない。だから当たり障りのない返答をした。



「アタシは金色小春。小春ちゃんって呼んでや」



ばっちりウインクをされて目を見開いた。

男…であってるよね。いや、どう見ても男のはず。先輩の扱いに困って財前を見上げた。はぁっと息を吐いて視線を移す。



「小春先輩、名字が困っとる」

「あらやだ。困らんといてや、名前ちゃん。乙女同士仲良うしようや」

「あ、はぁ…小春先輩、よろしく、です」



わけがわからなくて曖昧に答えるとクスッと笑われた。みんなに自己紹介をされたけどあたしが覚えられる筈がない。


元来人に興味がないあたしが、いくら濃いメンツだからって簡単にはインプットできない。どうしてこうも勉強とは違うんだ。



「名字、覚えられてないやろ」

「まぁ…」



それから財前はあたしにもう一度彼らの名前を教えてくれた。


フルネームが無理ならせめて財前の口から出る名前だけでも覚えよう。そう思うと案外頭にすっと入ってきた。



「覚えた?」

「多分…。謙也さん、部長、小春先輩、ユウジ先輩、千歳先輩、師範、副部長…であってる…?」



隣から順番に名前を言う。謙也さんと部長はもう知ってる。

オネェなのが小春先輩。小春先輩にべったりで口が悪いのがユウジ先輩。背が高いのが千歳先輩。お坊さんみたいなのが師範。優しそうなのが副部長。多分、覚えられた筈。



「ん。あっとる」



財前はクスッと笑ってまたお菓子に手を伸ばす。その瞬間をユウジ先輩と小春先輩が目撃していた。



「財前が女に笑った…」

「ユウくん、そんな驚かんでもええやない。」

「先輩らうざいっすわぁ」



興味なさそうに財前はお菓子を食べていく。





それからしばらくみんなとの部室でのクリスマスパーティーを満喫した。こんなに楽しいと思えたのはいつぶりだろう。





−47−


戻る