全力疾走



近いようで遠い。それはまさしくあたしたちの距離。


同じようで違う。それがあたしたちの世界。


近づこうとしたって、どんどん離れていく君。



いつの間にか好きになってたクラスメート。普通に仲が良い友達だ し、くだらないメールだってする。

でもね、違うんだ。

あたしは好き。でも謙也は違う、よね。



「名字ー」



所属するバスケ部の休憩時間に体育館の外に出て涼んでいたら、名前を呼ばれた。振り返るとそこにはあたしの好きな人、忍足謙也。


真夏の太陽に綺麗にブリーチされた髪を煌めかせて、満面の笑みで手を振ってくる。その服装は黄色と緑のテニス部のウェアで、あっちも休憩時間なことがうかがえる。



「あ、謙也。休憩?」

「おん。そっちもみたいやな」



にしてもあっついなー、なんて誰とでもするような他愛ない会話が始まる。


謙也は基本的に誰にでも態度を変えない。クラスでも部活でも、男でも女でも。



「何で体育館の近くに居るん?」



体育館とテニスコートは見える位置にはあるけど、離れている。わざわざ謙也が来ないとここで会うことはない。



「名字が見えたから休憩がてら話そ思うて」



にかっと笑うその笑顔がどれほどあたしの心臓を鳴らすか謙也は知らないだろう。それにあたしが見えたから来てくれたなんて嬉しすぎる。



「俺らは外におるから太陽がめっちゃ暑いけど、体育館も暑そうやな」

「うん。まるで蒸し風呂状態やで」



苦笑いをしてぱたぱたと手で扇ぐ。風を通そうと体育館のドアを開けたところで、やっぱり暑くて汗だくになる。室内競技だからもちろん日焼けなんてしてないから肌は白いけど、日々積み重ねている筋トレのせいで腕や足は筋肉質だ。


ほんとは筋肉のついた肢体を出して、汗だくになってるような女を捨ててる格好では謙也と会いたくない。でもその気持ちとは矛盾して二人きりになれる時間が嬉しくもある。



「謙也ー!!レギュラー練始まるよー」



テニスコート方面から走ってくるのはテニス部のマネージャー。

髪が長くて、華奢で、あたしとは違って女の子って言葉を具現化したみたいな子。すごく可愛いし仕事もできて、みんなから好かれるとても良い子。


謙也は振り向いてマネージャーに軽く返事をして、あたしにもほななと言って走って戻っていく。


せっかく体育館まで来てくれたのに、遠い。遠いよ。



謙也はテニス部のレギュラーで。試合でも勝ったりして。へたれと言われながらもみんなと仲が良い。

あたしはバスケ部でもスタメンをとれるかぎりぎりの技術。試合だって負けることもまだまだ多い。みんなと仲いいのだけは一緒だけど、気が強いからかキャラの問題か、女の子扱いって感じではない。


あたしたちは全然違う。


でも好き。メールが来るとにやけちゃうときもあるし、今日みたいに偶然会えるとすごく嬉しい。



「名前、練習始まるで」

「…うん。今いく!!」



体育館内から部員に呼ばれて、遠くに見えるテニスコートから目を離して体育館に戻る。


どんなに好きでも、謙也とは見てる世界が違うんだ。

例えるなら彼は向日葵。日々太陽に向かって前へ前へと進んでく。そのスピードは衰えることを知らない。そうやって人一倍大きな花を咲かせるの。


わたしだってそんな謙也と同じ世界を見たい。だからあたしは頑張れる。





いつか追い付いて見せるから。そしたら気持ちを伝えるよ。





「大好きやで」







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