ツンデレ少年の迷走




俺が初めて好きになった人。

俺はその人に振り回されっぱなし。せやけど、好きになってもうたらそんなん全然気にならん。



「あ、光くん光くん!!!」

「なんすか」

「これすっごく可愛いよー」



久しぶりに部活が休みで、二人で街中デートをしとると彼女、名前さんはそれはもう嬉しそうに笑う。
何かを見つける度に俺の服の裾をついと引っ張って、俺の注意を引く。

そんな笑顔が、仕草が、たまらんほどかわええと思う俺は相当キモいやろう。



「そうっすか?」



いや、女目線で言うたら名前さんが示した小物はかわええんかもしれへんけど。

俺にとってはそんな小物なんかより名前さんのがかわええ訳で。
名前さんの笑顔が周りの男の視線に晒されてると思うと少し、いや、かなりムカつく。



「ちゅうか、出ません?もう結構見はりましたやろ」



俺は醜い独占欲のために彼女を店から連れ出す。



「あ、私ばっかり楽しんじゃってごめんね。光くん楽しくないよね」



しゅんとする名前さんも可愛すぎる。

あぁ、いやそんなん言うてる場合ちゃうな。名前さんは何も落ち込むとこやない。


楽しいか楽しくないか聞かれれば、勿論楽しい。
せやけどそれは所謂ウィンドウショッピングが楽しいんやなくて、名前さんと居るから。名前さんと居れば、俺はどこへ行っても楽しいと思えるんやろう。


自分とは違ってころころとかわる表情とか。時々見せる我が儘とか。

全てが可愛すぎて、俺はどっぷりと彼女に溺れとる。


…勿論そんなこと誰にも、本人にさえ言えへんけど。



「別に楽しくないことあらへんですよ。ただ、ちょっとムカついただけッスわ」



ほんまはちょっとやないけれど。ちゅうか俺を差し置いて名前さんの視線を釘付けにする小物にまでも嫉妬するくらいのムカつき様。
…俺、カッコ悪。



「ごめんね、私が勝手にうろうろしちゃうから面倒だもんね…」



一応はぐれないようにしてるつもりなんだけど、と続けて更に落ち込む。服の裾を引っ張るあの行動ははぐれない為らしい。



「名前」

「はい…」



普段俺は名前さんと呼ぶけれど、時としては呼び捨てで呼ぶ。
それは怒ってるときとか、真剣なときだけやけど。



「あんな、」



俺よりかなり小さい名前さんに視線を合わせる為に少し屈む。
彼女の頭に手を置いて、小さい子供の頭を撫でるようにして撫でた。



「面倒とか思ってたら一緒に居らへん。俺の性格わかってはりますやろ?」



面倒なことは一切やらない。興味がないこともまた然り。そんな俺の性格を名前さんは知っとる。

でも言葉にせえへんと、彼女はたまに不安がる。



「うん…でも、光くん怒ってた…」



びくびくと怯えながら俺の様子を窺う。その若干上目遣いな瞳に俺がやられそうになっとるんを名前さんは知らんやろう。


俺はただ言葉にするんが苦手で、どっちかというと口下手やから。自分がこと恋愛に関しては器用やないことも十分分かっとる。



「俺が何で不機嫌になったんかわからんやろ」

「…うん」



言えない。嫉妬したなんて。
名前さんは何もしてへんし。心狭すぎてカッコ悪いやん。



「一人でうろうろせんといて」



結局思ってたこととは全然ちゃうことが口から出ていく。

別に名前さんは一人でうろうろしてへんし、ちゃんと俺の注意を引いてくれとる。
まぁそんなんされへんでも俺は名前さんしか見てへんから見失ったりはせんけど。



「はい…ごめんなさい」


きゅっと俺の服の裾を掴む。その瞳は泣きそうに潤んどる。
ごめんな、名前さんが謝ることは何もないんにな。



「ん」



俺は左手を差し出す。勿論手を繋ぐために。



「うろうろするなら俺も引っ張ってってください。そしたらはぐれたりせんやろ」



その言葉に彼女は顔をあげて目をぱちくりさせる。それから微笑んで俺の左手を小さな手で握った。

俺が指と指の間に滑り込んで絡ませると、また嬉しそうに笑って顔を赤らめた。



「光くん、ありがとう」



嫉妬のことなんて一切言えへんけど、照れながら言うその笑顔に俺がやられてることにきっと彼女は気づかない。












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