仁王先輩はうちを自分の膝に乗せてニヤニヤと見る。一方うちはその視線から逃げようと目を泳がす。 あかん。変な想像、いや妄想してたんがバレたら嫌われる。 「名前ちゃん、何考えてたんじゃ?」 「だから…な、にも…」 うちは俯いて顔を隠そうと必死。こんな至近距離で見つめられて仁王先輩の色香にやられへんわけがない。目を見たら絶対にあかん。 「名前」 床を見ていたうちの顎に仁王先輩の白くて細い指がかけられる。そのまま上を向かせられて綺麗な顔が近づいてきた。 うちも自然と目を瞑って仁王先輩の柔らかい唇を受け入れた。 って、まさかほんまにこの展開になってるし。隣にはお姉さん居るんやで。ありえへんやろ、絶対。 「にににに仁王先輩!!あ、あかんです!!」 「ぶっ…ククッ…」 「へ?」 いきなり噴き出すってどういうことや。うちなんかおもろいことしたっけ。 いやいや、してない。 「やっぱりこういうこと想像してたんじゃな」 「あ、や、それは、ちゃうくて、ですね……」 うちの言葉は尻すぼみになって消えていく。恥ずかしなって目が合わせられへん。ちゅーか絶対今顔赤い。 変な想像してたんバレたし。最悪や。嫌われ… 「…ないからな」 「うぅ…」 相変わらず無意識に口にだしとったらしい。恥ずかしすぎて顔見られへん。 「変なって何想像してたんじゃ」 「いやーそれは、」 「こういうこと?」 ニヤリと一つ笑ってうちの腕を引っ張った。予想外のことにうちはそのまま引き寄せられてベッドの上に仰向けに。視界には仁王先輩と白い天井。 ヤバい、ヤバいヤバい!!このアングルは最強にヤバい!!仁王先輩が格好良すぎる。 「ん…っ」 ぼーっと仁王先輩を見上げとったら唇が奪われた。しかもいつものような触れるだけのキスやなくてなかなかに深い。 右手をうちの横について左手をうちが逃げへんように後頭部に回す。 おかげで息ができへんくらい深いキスから逃げることはできひん。 やっと離れた頃にはうちだけ肩で息をする状態。 「も…あか…ん…」 仁王先輩を押すと意外にも簡単に離れてくれた。それでうちを引き起こしてチュッと頬にキスをした。うちはそのままベッドの上で仁王先輩の腕の中。 反則や、反則!!レッドカード。 心臓がありえへんくらいバクバク鳴ってて。ほんまこのまま死んでまうんやないかって思った。 こんな急に色気振りまいて、うちを殺す気かっちゅーねん!! 「隣に姉貴が居るのに名前を抱くわけないじゃろ」 クツクツと楽しそうに笑ってうちの髪を梳くように頭を撫でる。うちは更に真っ赤になって顔を見られないように仁王先輩の胸に顔をうずめた。 「仁王先輩…」 「ん?」 「もし、もしお姉さんが居らんかったら…抱いてましたか?」 仁王先輩の手が止まる。そのまま降りてきてうちの頬に触れた。 「かもな。でも名前が嫌がったらしないかのぅ」 「ほんまに?」 「好きな女の嫌がることはできないもんじゃよ」 目を細めてほんまに愛おしそうにうちを見る。 あぁ、この人は…。詐欺師とか言われて本性見せへんくせに。どこまでもうちを優先してくれるんやな。 好き…。うちの中で好きがいっぱいあふれてくる。 「ま…」 「ま?」 「…雅、治…先輩」 仁王…雅治先輩は目を丸くして自分の腕の中のうちを見下ろす。それからふっと笑ってうちを抱き寄せた。 「好きです。ほんまに好きなんです」 うちも雅治先輩の背中に腕を回してしがみつく。 うちほんまに雅治先輩のこと大好きや。だから好きって言うて欲しい。 「俺は好きじゃなか」 「え」 雅治先輩から離れて少し空間を作って見上げる。 好きやない、の?ならなんでうちは今ここに居るんや。あかん、泣きそう。 「そんな泣きそうな顔しなさんな」 「だって…」 「人の話は最後まで聞きんしゃい」 もう一度引き寄せられて耳元で囁かれた。 「愛しとうよ、名前」 その言葉でうちの目から涙が流れた。でもさっき泣きそうになった涙とは違う。これは嬉し涙。 「高校生の分際で愛しとるなんて重い言葉かもしれんけど、俺は本当は言葉にできんくらい名前のこと思っとる」 うちから離れて目をじっと見つめてくる雅治先輩。だから詐欺やなくて本気なんやってわかる。 詐欺師やけどうちに伝える時、雅治先輩は目を見てくれるから。 「だからこれからも俺といてくれんか?」 「うぅー…雅治先輩のアホ…ぐすっ…当たり前に決まっとるやんかぁ」 ほんまの雅治先輩はうちの前にいる。 からかうのが好きで、嘘ばっかりの詐欺師やけど。 ほんまはやきもち妬きでうちのことを一番に考えてくれる甘い人。 それが仁王雅治っちゅー人。 そんな雅治先輩をうちも愛しとるんや。 END... |