日曜日の朝、うちのチャイムが鳴った。玄関に走って開けると大好きな仁王先輩がいる。



「はよ」



初めて見る私服姿の仁王先輩に目がそらせなくなる。黒がベースで、でも決して地味なわけやない服。それはものすごく仁王先輩に似合ってて。



あかん。ヤバい、ヤバすぎる!!ただでさえカッコええのに、カッコ良さいつもの5割増しや。



「行くかのぅ」



仁王先輩はうちの手を引いて歩き出した。



今日は初デート。一日中仁王先輩の部活がなくて一緒に居れる。どこか行きたいとこあるかと聞かれてうちはすぐさま仁王先輩ん家と答えた。


仁王先輩は最初こそ少し嫌そうな顔をしたけど、うちが頼んだら渋々やけどOKしてくれた。



「先輩、どこ行くん?」



いつも仁王先輩がうちを送ってくれてから行く方向とは真逆。学校に行く時の方向や。



「どこって、俺ん家じゃけど?」

「せやかて方向違いますよね」

「あー…」



目をそらして頭を掻く。何か隠しとる仕草や。喧嘩してから隠し事しないって約束したんに。



「仁王先輩?」

「黙って着いて来んしゃい…」



若干の不信感も抱きながらも、言われた通り黙ってついて行く。
仁王先輩が立ち止まった目の前の家には確かに“仁王”という表札がある。


でも問題はそんなことやない。今うちらが歩いて来た道はうちとは反対方向。
つまり仁王先輩は毎日うちを送るために遠回りして帰ってたってことやんな。



「仁王先輩…すみません」

「…言うと思った。だからうちに連れて来たくなかったんじゃ」



だって初めて送ってもらった日からもう何ヶ月もたってんやで。毎日部活で疲れとんのにうちなんかのために。



「しかも姉貴居るし」

「え!?お姉さん居てるのに上がって平気なん?」

「ものすごく会わせたくなか…」



仁王先輩は大きく溜め息をついてからドアを開けた。髪を染めてもらうくらいやし仲はええんと思ってたんやけど。ちゃうのかな。






実際に見ると、仁王先輩のお姉さんは何ちゅうか…すごい。


想像以上の美人で、スタイルよくて、おしとやかそう。それやのに性格はめっちゃ強引。


そしてうちはお邪魔してすぐにそのお姉さんに捕まってしまってる。仁王先輩を自分の部屋に追いやって、うちは今お姉さんの部屋に居る。



「雅治が彼女連れてくるなんてねー。名前ちゃんは雅治のどこが好きなの?」

「ぶふっ!?」



紅茶をいただいてたら聞かれて吹き出す。本人にやって言うてへんのに。言えるか!!



「ど、どこがって、言われても…」

「じゃあ雅治の好きなとこないの?」

「や、あの、そうやなくて!!仁王先輩のこと好きすぎて…」



って何言っとんねん、うち!!さっきからずっとこんな感じや。お姉さんのペースにのせられっぱなし。


だいたい何でお姉さんと2人きりやねん。今日は仁王先輩とずっと一緒におれると思ってたんに。


今更になって仁王先輩が、家に行きたいって言った時嫌な顔した理由がわかった気がする。



「名前ちゃん」

「は、はい」

「付き合って今どれくらい?」

「えと…4、5ヵ月ってとこですけど」

「雅治のこと名前で呼ばないの?」



正月にも言われて、またか。面と向かって名前を呼んだことはない。電話で、それも1回だけ。
ほんまは名前で呼びたいんやけど、やっぱり照れる。



「本当は名前で呼んで欲しいと思うよ?」



お姉さんはさっきまでの強引さと打って変わって穏やかな笑顔をしてた。あ、仁王先輩と似てる。



「ほら、雅治のところ行ってあげな。いろいろ聞いてごめんね」



立ち上がってドアを開ける。雅治の部屋隣だから、と言われて隣のドアの前へ。お姉さんはすぐに自分の部屋に帰ってしまう。



仁王先輩の部屋からは物音もしない。何してんのやろ。寝とんのかな。


控えめにノックをしたら仁王先輩の声がした。あかん、何や緊張する。何でや。初めて仁王先輩の部屋に入るからか。


ゆっくりドアを開ける。仁王先輩はベッドで横になってた。



「やっと解放されたんか」



起き上がってうちに近づいてくる。うちの頭を撫でて部屋に招き入れた。


仁王先輩の部屋はめっちゃ綺麗。これが男子高校生の部屋なん?物が少なくて、でもちょこちょこ置いてあるんは空色。

仁王先輩ってもしかして青が好きなんかも。だからよく屋上に居るんか。



「姉貴に何もされんかったか?」

「は…い…」



仁王先輩は適当に座るように言って、自分はベッドに座った。


仁王先輩先輩が見られへん。だって、カッコええし。いや、そらいつものことなんやけど。二人っきりやし。他に誰も居らんわけで。
しかもここは仁王先輩の部屋で仁王先輩の匂いが充満してる。



「…」

「名前、おいで」



うちは素直に仁王先輩に従う。仁王先輩はうちを抱きしめてくれて、首元に頭を乗せた。ふわふわな髪がくすぐったい。



「仁王先輩…?」

「やっと二人きりじゃな」



仁王先輩の熱い吐息が首にかかる。仁王先輩はうちから頭を離して見上げる。


うわ…この角度はヤバい!!いつもは見上げてる顔が下にある。微妙に上目遣いやし。男の上目遣いなんにこんな威力あるんか。
変に色っぽい。ちゅーかエロい。だって今仁王先輩はベッドに居るし。二人きりやし…


ってうち何考えてんねん!!あかんあかん、あかんやろ。思春期の男やないんやから。



「名前?どうしたんじゃ」



ブンブンと頭を横に振るうちを見て仁王先輩は笑う。



「な、何でも…」

「何考えとった?」



ニヤリと仁王先輩の片方の口角が上がった。



しまった、仁王先輩のスイッチ入ってもうた。