先輩らも大阪に帰って、冬休みが明けた。学校が始まってしばしば見る光景が仁王先輩が告白されとるシーン。


おかしない?自分の彼氏が告白されるところを見るなんてシチュエーション、普通はそんなにないと思う。
彼女に遠慮するとかそういう気持ちの配慮があるもんやろ。だいたい彼女おる男に告白すんなや。


きっとあの告白しとる女子たちはわざとうちの耳に入るようにやっとるんや。絶対そうや。
せやなかったら、こうも何回も見るかっちゅーの。


最近仁王はものごっつモテてる。うん、もともとやねんけど。
そら、仁王先輩カッコええししゃあないんかなとも思うけど。
それに彼女がこんなちんちくりんなら可能性あるんやないかって考えるお姉様方がいらっしゃるんもわかるけど。


それでも嫌やねん。仁王先輩はうちのこと好きやって信じてはいるけど。
告白の返事をする時はきっとその人のことを考えてて。それだけでもちょっと嫉妬してしまう。



「仁王君に彼女がいるのは知ってるの。でも、私仁王君のことが好きで…」



ああ、またか。もう何度目やねん。何で昼休みの度に彼氏の告白シーン見なあかんのや。ここまで来るとほんまに狙ってるとしか思えへんわ。



「俺には名前がいる。悪いけど諦めてくれんか」



いつもそうやって断る仁王先輩。たいていの女子はそれで謝って、去っていく。それなのに今日の子は違った。



「あの、諦める、から…その、最後に抱きしめてもらってもいい…?」



は?仮にも彼女持ちの男に何言うてんの、あの人。さすがのうちでも怒るで。



「すまんが、名前に誤解されるようなことはしたくないんじゃ」



仁王先輩、ほんまに好きや。そんなん言われたら絶対誤解なんかせえへんし。嬉し過ぎる。



「それに名前以外の女に、触りたくない」



女の子は泣きながら走って行ってしまった。



そんなんの繰り返し。何回見ればええんやろう。モテる彼氏を持つのも不安がつきない。
内心いつ自分があの子らのように突き放されるのかびくびくしてる。触りたくない、なんて言われたらきっと苦しい。



「名前?大丈夫か?」

「あ、はい?」

「ぼーっとしちょる」



あかんあかん。今は仁王先輩と空き教室でお昼ご飯食べてるんや。久しぶりなんやから楽しまなきゃ。
なのに仁王先輩の言った、触りたくないという言葉が頭から離れない。もしその前に入った名前がうちの名前やなかったら…



「名前ー?」



今度は目の前で手を振られてはっとする。仁王先輩は心配そうにうちの顔を覗き込んだ。



「俺の話聞いてないじゃろ」

「えっと、何でしたっけ?」

「もうよか…」



ご飯を食べ終わった仁王先輩は呆れたように溜め息をついた。



「何かあったんか?最近変じゃけど」

「何も!!変やないですよ。いつも通りや」

「どこが」



仁王先輩はうちのおでこにデコピンをして少し不機嫌そうに顔をしかめた。少し痛かったおでこをさすって、笑いながら誤魔化す。


そういえば、最近仁王先輩に好きって言ってもらってない。最後に言われたのは多分、冬休み中大阪にいた時のメール。つまりクリスマス。


うちは別に常日頃から言われたいわけやない。抱き締められたりキスされたりとかそういうのはよくあるし。
好きでいてくれてるのはわかってるから。でもやっぱりたまには言葉にもしてほしい。



「何があったん?言いんしゃい」

「ほんまに何も…」

「名前」

「…言わない」



それは何かあることを肯定しとる言葉。いつもなら名前を呼ばれてしまうと言わずにはいられない。
でも今回のは仁王先輩には何の非もない。勝手にうちが不安になってるだけ。仁王先輩に言うても仕方ない。



「俺には言えないことなんか?」

「…」

「はぁ…もういい」



仁王先輩は立ち上がって冷たい声で言った。もういい、って。告白してくる女子に言うような低い声。多分怒ってる。



「ごめんなさい」

「謝る理由わかってないのに謝るな」



仁王先輩に、ほんまは突き放されるのが怖いんです、なんて言ったってしゃあないやん。
きっと今はうちを手放す気はないんやろうから。でもそれは今なだけで。今後どう気持ちが変わるかなんて誰にもわからない。



「もう教室帰るぜよ」

「あ、仁王先輩」



うちが呼んでも返事はない。スタスタと廊下を歩いて自分の教室を目指し始める。
いつもならうちを教室まで送ってくれて、ついでに赤也を弄って帰って行くのに。
今日は本気で怒ってるらしい。うちは慌てて仁王先輩を追いかける。



「お前さんの教室はあっちじゃろ」



振り返ってそう言って、仁王先輩はまた歩き出した。何やねん。そんなに怒らなくたってええやん。


うちは何故かイラッときて、気づいた時には全て吐き出していた。周りに人がたくさんいることも気にせずに。



「仁王先輩のアホ!!何やねん。最近告白ばっかされてうちの気持ち考えろっちゅーねん。仁王先輩はカッコええし優しいしモテるんもわかるけど、うちが不安なんも知らんで。うちはいつさよなら言われんのか不安で仕方ないのに!!最近好きとか言うてくれへんし、いっつも飄々としてて。うちは仁王先輩の考えてることわかる程の頭ないし、言うてくれへんとわからんわっ」



一息に全部言って。はぁはぁと息をしながら仁王先輩を睨んでうちは背中を向けて自分の教室に走り出す。


仁王先輩が悪くないこと、うちが勝手に不安になってること、頭ではわかってる。
そのはずなのに八つ当たりでこんなん言って。きっと仁王先輩呆れてるし怒ってる。


どうしよう。これでさよならとか触るなとか言われたら。いや、うちが悪いんやけど。面倒な女やって思われてるかも。


あかん。泣きそう。自業自得なのに。


ほんまにどないしよう…。



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