危なかった。本当に。危うく本気で襲うとこじゃった。 背中を向けられて寂しいと言われて。向き合うともの凄く近くに名前の顔があって。 俺の理性はそこでぷつりと切れた。 キスをすれば苦しそうに俺を呼ぶ。それが何だか色っぽくて俺は我慢ができなくなった。 息を吸おうと薄く開いた唇に舌をねじ込めば驚いたように名前の体がびくりと動いた。 「我慢して背中向けとれば煽ってくるし。本当に犯すぜよ?」 「え、なっ…」 名前の焦った様子にはっと我に返って今に至る。 名前は俺の腕の中でぐっすりと眠っている。規則正しく聞こえる寝息がそれを物語っている。 無防備過ぎる寝顔。俺の理性は朝まで保つんか…。そもそも俺は寝られるのか。 「可愛いのぅ」 名前の柔らかい頬をつんとつつけば、ん…と声を出す。誘っとるんか、こいつは。 さすがに寝てる彼女を襲うなんて最低じゃ。というか起きてても名前が嫌がればシない。 そう決めてたのに深めのキスをした時本当に自分がどんなに意志が弱いか痛感した。 まぁ、でも仕方ないか。ベッドの上で密着した状態で彼女と居ればな。 むしろよくあれで止めたと思う。 「にぉ、せんぱ…」 「ん?」 名前はもぞもぞと俺にくっついてくる。呼ばれたと思って名前を見れば相変わらずぐっすり。 寝言で俺を呼んだってことか?ヤバい、嬉しい。もしかして夢に俺がいるんか。 「名前」 薄暗い部屋でぼんやりと名前の顔が見える。 長い睫は下がったままで、柔らかい唇は合わさっている。短い髪が顔に少しかかっているのを避けてやった。 やっぱり名前は女じゃ。今日財前が名前を女らしくないとからかってるのを耳にした。 多分それは名前が気にしてること。そんな自分を俺に知られたくなかったから、俺が大阪の奴らと関わるのを嫌がった。 でも名前は女らしくないなんてことはこれっぽっちもない。俺には充分過ぎる程女らしい。 というより女じゃなかったら俺は自分を抑えられなくなるほど欲情せんし。一氏と金色じゃあるまいし。 「…愛しとる」 初めて口に出した。好きじゃ足りない。もっと深くて大きい。それ程俺は名前を求めてる。 こんなふうに思ったのは名前が初めてじゃ。今までこんなに好きになったことなんてない。 大抵の女は思い通りになってきた。ちょっとでも気になった女は即落とす。そして好きじゃなくなれば別れる。 人を騙すのなんて俺には容易なことじゃ。自分の気持ちを偽って相手を詐欺にかける。 それは日常生活でもテニスでも、恋愛でさえも同じ。 そう思ってたけど名前への気持ちに偽りはない。本当に好きなんじゃ。苦しくなるくらいに。 好きなんて言葉じゃ足りなくて愛してるって伝えたいくらいに。 でも名前にそんな言葉を言うことはできん。名前はきっと重い愛なんて欲しがらないから。 だから今だけ、名前が寝てる間だけは言ってもいいじゃろ。名前には聞こえないんじゃから。 「愛しとうよ、名前のこと。誰よりも…」 俺の呟きは暗闇の中に消えていく。それでいいんじゃ。名前には聞かれてはいけない気持ちじゃき。 これは俺の名前への深すぎる愛。俺らはまだまだ餓鬼で何も責任が持てないから。 愛してるなんて言葉を口にしてはいけない。 無防備に眠る名前の柔らかい髪を梳く。そして俺は名前の鎖骨あたりの白い肌に唇を押し付ける。 そこに赤い痣を作った。白い肌にくっきりとついた赤い跡。 名前は俺のって証。誰にも渡さん。 「…っん」 痛かったのか名前が眉を歪めた。起きたかと思ったが、名前はまた普通に寝始めた。 好き。本当に。俺はきっと俺自身が思ってるよりずっと名前のことが好きじゃ。 嫉妬とか独占欲とか初めて知った。可愛くて愛しくて、大切な女の子。 キスマークくらいなら襲うには入らんよな。 . |