何で、どうして、こうなった。おかしいやん。
だって本来うちに居るんはうちの家族だけの筈で。
先輩らが居るのさえもいつもと違うのに。うちに仁王先輩が居る。



「先輩らは隣の広い部屋とリビングで雑魚寝で。布団とか毛布とか押入にあるんで適当に使うてください」



いくらうちがそこそこ広いとはいえ9人分の客間はない。合宿所みたいにめっちゃ部屋があるわけやないし。
やから先輩らは雑魚寝。2部屋使えば何とか大丈夫やろう。金ちゃんが居らんだけましや。



「仁王先輩はそこの客間使うてください」

「は?いや、俺もこいつらと一緒でよかよ」

「あかん!!それだけは絶対ダメです」



仁王先輩は意味が分からない様子で頭に?を浮かべてる。


だって仁王先輩を先輩らん中に放り込んだら、何言われるか、何されるかわかったもんやない。
特に蔵ノ介先輩と小春ちゃん先輩。もう要注意人物以外の何者でもないやん。



「そんなん言ってほんまは仁王と一緒の部屋がええんやろ」

「はぁ!?ユウくん先輩何言うてん?」

「うわ。狙っとったんか」

「おいこら財前。本気にすんなや。ちゃうっちゅーの」

「もう名前ちゃんたら、そんなら正直に言うたらいいのに。ほら、仁王君は名前ちゃんの部屋に行ったって」

「ちょっ、金色押すな」



うちらは二人共押されながら、うちの部屋に押し込まれた。先輩らはおやすみとかニコニコして言うてドアを閉めた。
うちらはお互いに顔を見合わせて、困惑した顔をする。


だって仁王先輩と二人きりなんて。それも一晩中。だいたいうちの部屋にはうちが寝てるベッドしかない。
布団をとりに行くにも先輩らが使ってる部屋にあるのはきっと先輩らが全部使ってるにちがいない。
だから客間に行ってもらおうと思ったんに。



「どう、しましょか…。ベッド1個しかないんやけど」

「名前が使いんしゃい。俺は座ってでも寝れるしのぅ」

「それはダメです。仁王先輩は今日練習試合して疲れてるんやから、その辺でなんて寝させられません」



うちは別に疲れてへんし。ベッドは仁王先輩に使ってもらうとして、うちはどないしよう。机に突っ伏してでも寝るか。



「そんなん俺が許すと思うか?」

「ですよね…」



また考えとることが口に出てた。なんやもう慣れてしまって驚きがないわ。



「…一日だけじゃし同じベッドでも構わんぜよ」

「えぇ!?」



そんな選択肢うちにはなかったわ。そっか。一緒に寝れば二人共ベッドに寝れるし暖かいし、一石二鳥やな。



「嫌なら俺が机で名前がベッド」

「嫌やないです!!全然OKです」



布団に潜り込むと仁王先輩も隣にすっと入る。けどおやすみと言って背中を向けてしまった。
何やそれが寂しくて。でも疲れてて早く寝たいんやって思うと何も言えへんかった。

でもちょっと触るくらいなら、ええかな…。そう思って掌を背中に置いた。
仁王先輩はピクッとして眠そうな声でんー?と唸った。



「どうしたんじゃ?」

「や、何でも…」

「そーか」



仁王先輩は黙ってしまう。やっぱり寝たいんやな。邪魔するんは悪い思うのに、どうしても構ってほしくなってしまう。
せやからうちは今度は仁王先輩の背中にコツンと額をくっつけた。あったかい。



「仁王先輩、もう寝てしまったん…?」

「寝とらん。つか寝れん」

「す、んません」



寝られへんのはうちのせいだよね。でも寝るからって彼氏に背中向けられるとどうしても寂しく感じてしまう。
それってうちだけなんか?



「何謝ってるんじゃ」

「だってうちが触るからやろ?」

「まぁ、あながち間違っとらんけど」



もう一度謝ってうちは仁王先輩から離れた。布団から出ないギリギリのとこでうちも仁王先輩に背を向ける。


そうや、こうすれば仁王先輩の存在忘れられる。今、うちは一人で寝てるんや。仁王先輩はここには居らへん。



「名前」



居らへ…って居るやないか!!無理!!仁王先輩が居らんって思い込むなんてできひん。



「何でいきなり触ってきたんじゃ?」

「…」



そんなん答えらへん。だって寂しくて、なんて言うたら絶対引かれる。



「言わんとこのままじゃ」

「っ!!…仁王先輩が、」

「俺が?」

「背中、向けるから…」



かぁっと顔が赤くなるのを感じる。幸い背中同士を向けてるから気づかれへんけど。



「その…寂しく、て」



言った。最後まで言うてしもた。もう絶対引かれた。最悪や。



「…」

「ちょっ、黙らんでくださいよ」



うちは振り返って仁王先輩の背中に向かって言う。
そら引いたかもしれへんけど何かリアクションないと余計悲しなるやんか。



「俺、今そっち向けん…」

「なんでですか?うちは仁王先輩に背中向けられるん嫌です」

「…どうなっても知らんぜよ」



仁王先輩ははぁっと息を吐いて、もぞもぞと動く。そうしてうちと向き合った。
暗いけど仁王先輩の整った顔がうっすらと見えた。眉間に皺を寄せてるのがわかる。


そしてうちと目を合わせようとしない。



「べ、つに無理して向かんでもええですよ」



そんな顔してまで背中向けたかったんやって思うと、悲しなってぼそっと呟いた。


その時にまた仁王先輩が動いた。と思ったら仁王先輩は何故かうちの上にいた。所謂押し倒されたような格好。



「に、仁王先輩?」

「…こうなるから名前の方向かんかったんに」



仁王先輩の顔が近づいてきて、唇が押し付けられる。角度を変えながら何度もするから息が保たなくて仁王先輩の胸板を押す。



「っん、はぁ…にお、せんぱ…」

「彼女と同じ布団に寝てて何もしない男がいるはずないじゃろ」



そうやって不敵に笑うと、また口付ける。
長いキスに苦しくなって息を吸おうと、少し口を開けた瞬間仁王先輩の舌がうちの口内に侵入してくる。
うちの舌を絡め取ってどんどん口内を侵していく。



「んぅ…っはぁ、はぁ…」



やっと口を離してくれた時にはうちは肩で息をしていた。いつになく激しいキスやな。



「我慢して背中向けとれば煽ってくるし。本当に犯すぜよ?」

「え、なっ…」

「…嘘じゃ」



仁王先輩はうちの横にコロンと横になってうちの頭を撫でてくれた。顔を見ると仁王先輩はうちを抱きしめてくれた。



「悪い。調子乗った…」

「は、い」

「もう寝るか。今度こそおやすみ」




そう言われてもすぐに寝れるはずもなく。だって抱きしめられてるせいで体温上がるし。
仁王先輩の息遣いとかめっちゃ間近に聞こえるし。こんな状況で寝れるわけないやんか。


うちは目を瞑ったまましばらく起きていた。




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