どこが好きなんて全部に決まってるじゃろ。名前は何やっても可愛いんじゃから。 って俺いつからこんなに一人の女に執着するようになったんじゃ。 気持ちが隠せない。頭でわかっててもやっぱり嫉妬はしてしまう。 あいつらは俺と会う前の、俺が知らない名前を知ってて。しかも名前もあいつらに懐いてる。 「はは…、詐欺師の名が泣くのぅ」 部室の自分のロッカーにもたれる。 白石は名前は家族だって言ってた。俺もそう納得してた。 白石たちが名前に向ける目は確かにそういう目なのかもしれん。けどすごく優しそうな顔するから嫉妬せずにはいられない。 本当なら名前を独占したい。俺以外の誰にも触れさせないし、全部俺のものにしたい。 でも大阪のあいつらがいて、立海の奴らがいて、だから今の名前がいる。 「名前…」 自分の首にさがる揃いのリングを握る。そして深呼吸をした。 大丈夫。名前が好きなんは俺。 あいつらは名前の兄貴分。 気持ちを落ち着けて部室からでたところでまた試合のコール。今度はシングルス。 相手は…千歳。試合前にネット越しに少しだけ会話をした。 「名前は仁王にぞっこんたい。普段あぎゃん顔しない」 それは可愛い姿をこいつらは知らんってこと。 俺の知らない名前をこいつらは知ってるように、こいつらの知らない名前を俺は知ってるってこと。 千歳は目を細めてコートの外で見てる名前を見る。 俺も同じように名前を見たら、気づいたようでキョトンとした顔をした。そしてにっこりと笑った。 「ほら。仁王が好きやって顔に書いてあると」 千歳は楽しそうに笑って、ベースラインに行く。千歳のサービスゲームから試合が始まる。 「仁王も顔に出てっと」 「なっ…!!」 「詐欺師なんに。ほんにお互い好き合ってるばいね」 「…当たり前じゃろ。名前は誰にもやらんぜよ」 千歳はその言葉に眉を下げて微笑んだ。こいつらも名前のことが大切なんじゃ。仲間、だから。 それから何試合かして、全日程が終わった。冬だから暗くなると一気に寒くなる。 俺たちはすぐに着替えて、暖かい格好をする。 「名前、帰るぜよ」 「あー、えっと、はい」 やけに微妙な反応。いつもなら笑顔で隣に並ぶのに。 「どうしたんじゃ?」 「実は…」 「名前ちゃーん」 金色が手を振りながら走って来て名前の前で立ち止まる。その後ろからぞろぞろと大阪メンバーが歩いて来る。 「アタシたちほんまにお邪魔してええの?」 「ええも何も親が許したんやし。先輩らうちに泊まるつもりで来てるんやないですか」 は?名前の家に泊まる?こいつら全員が?男8人も家に泊めるつもりでいるのか。 「でもな、嫌なら俺らはどっかホテル探すからええねんで」 「蔵ノ介先輩、気ぃ使わんでください。今から探したら大変やないですか」 「せやけど…仁王クンは嫌やろ?」 白石がちらりと俺を見る。話をあまり飲み込めとらん俺は曖昧に返事をする。 それを見て白石ははっと何かに気づいたように名前を見た。 「まさか仁王クンに言うとらんのか」 「だ、だってうちかて新幹線の中で知ったんやもん」 「まったく…。彼氏には言わなあかんやろ。他の男ら家に泊めるんやから」 白石は呆れたように溜め息をついた。それから口を開こうとした。が、それは金色に阻まれた。 「ほんなら仁王君も名前ちゃんの家に泊まればええやない」 「おー、そらグッドアイデアやな」 「こ、小春!!まさか浮気か…!?」 「ユウジさんこっち来てからそればっかりッスね」 いやいや、待て待て。 おかしいじゃろ。何が、って全部が。俺が名前の家に泊まる意味がわからんし。 「一人くらい増えたって変わらんやない」 「え、ちょっ、待ってくださいよ。そんなん仁王先輩に迷惑やし…」 名前は焦ったようにしどろもどろし始める。 「それに、先輩ら絶対仁王先輩に何か言うんやろ。ちゅーか先輩らに仁王先輩とられんの嫌やし」 俺の制服の裾をキュッと握る。何じゃ、この可愛い生き物は。今すぐにでも抱き締めたい。 「仁王先輩かて嫌ですよね?」 実は全く嫌じゃない。だって普段見れない名前が見れるから。 それにいくらその気がないとわかっていても男共の中に一晩いさせるは嫌じゃ。 「別にええぜよ」 「ですよね。せやから…って何でですか!?」 名前は俺が断ると思ってたらしく、見事なノリツッコミをする。 普通に考えて彼女と少しでも長く一緒にいれるなら断らんじゃろ。 「ほんなら決まりやね。仁王君、たくさんお喋りしましょーね」 「小春ぅ」 「小春ちゃん先輩!!仁王先輩に近づくん禁止!!」 一氏と名前が金色と俺の間に割り込んだ。 金色は鬱陶しそうに一氏を見る。名前は金色を睨む。 「いややわ〜、や き も ち?」 「ちゃ、ちゃいます!!もう、ほら、帰りますよ!!」 名前は顔を赤くしてずんずんと行ってしまう。そんな姿がいちいち可愛い。 いつもと違うのはやっぱりこいつらがいるからなんか。 「名前もそんなんするんやな。せやけど仁王、小春はやらんで」 「いや、いらんし」 一氏に真面目な顔で言われた。誰がそんな男いるか。というより名前より好きになれる人間がいるはずない。 「待ちんしゃい」 走って名前に追いついて隣に並ぶ。名前の顔はまだ少し赤くて、それを隠したいのか顔を逸らす。 「仁王先輩のアホ…」 「何でじゃ」 「…」 「言わんとわからんよ?」 意味もわからず拗ねとる名前。俺は隣にある小さな手を握る。勿論指を絡めて。そうすると名前はキュッと握り返してきた。 「…先輩らからうちのこと聞かれたら困る」 「理由は?」 「うち、かなりお転婆やったから、その…幻滅されて嫌いになられたら嫌やもん。せやから来て欲しくなかったんに」 「なんじゃ、そんなことか。俺がそう簡単に嫌いになると思っとるんか」 俺も安く見られたもんじゃの。名前にはまだ俺の愛が伝わっとらんらしい。 「名前、こっち向きんしゃい」 俺の言う通り素直に俺を見上げる。俺よりかなり背が低いせいか自然と上目遣いになる瞳。それがたまらなく愛おしい。 「甘いぜよ」 「へ?…んんっ」 繋いでない方の手で名前の後頭部を引き寄せて口付ける。 わざとチュッと音を立てて唇を離すと、名前は顔を真っ赤にして口をぱくぱくする。 「俺はそう簡単に離さんぜよ」 ニヤリと笑ってわかったか、と聞くと、名前は何度も頷いた。 「道端でイチャイチャすんのやめてもらえますか」 「んもう、ラブラブなんやから。羨ましいわ〜」 「仁王クンって意外と大胆なんやなぁ」 大阪組に見られて色々言われることで恥ずかしかったのか、名前は下を向いた。そして繋いでる手を少し強く握った。 「こぎゃん名前初めて見たばい」 「俺だけに見せる顔じゃからな」 照れて赤くなるのも、嫉妬して怒るのも。お前さんらは知らんじゃろ。 . |