静かに新幹線に揺られるはずやった。うちは新幹線に乗って神奈川に帰ってます。でも新幹線に乗ってるのはうちだけやない。



「ちょっ!!財前、何俺の菓子食うてんねん」

「別にええやないですか。腹減ってんやから。謙也さんも食べます?」

「あ、おおきに…ってそれ俺のやろ!!」

「財前、謙也、煩いで」

「「すんません…」」



…何故!?どうしてみんながいるんや!?しかも騒いでるんは謙也先輩と財前だけやない。ラブルスの2人もなんや勝手に新幹線内で漫才始めるし。



「…何で先輩らも新幹線乗ってん?」



ほんまは3日に戻るはずやったけど1日だけ早くして2日に戻ることんなった。うち一人だけやけど。家族はみんな明日戻るらしい。


で、それが何故許されたかっちゅーのは気にはなってた。うん、うちの親が一人で戻すわけないって思ってた。



「立海と練習試合するんやから当たり前やん」



財前は当然のようにさらっと言った。謙也先輩のお菓子を食べながら。



「は?練習試合?」

「あ、今日は全員名前ん家に泊まるからよろしゅう。ちゃんとご両親の許可もとってるからな」



…つまりはみんな一緒やから一人神奈川に戻しても一日くらいなら問題ないってことか。
いや一日も早く仁王先輩に会えるんは嬉しいけどさ。それでええん、お父さん、お母さん!?
先輩ら+財前は仮にも健全なる男子高校生やで。もし何か起きたらとかそういう心配はないんですか。



「あー、ないない。名字に惚れるなんて“仁王先輩”くらいやろ」

「だいたいこの中の誰が名前を襲うかもなんて考えるんや」



蔵ノ介先輩は自由過ぎるほどのびのびと過ごす部員たちを見回す。
財前は女に興味ないし、謙也先輩はヘタレやし、ラブルスは2人の世界入ってまうし、銀先輩と千歳先輩はまぁありえんやろう。



「うん、確かに」

「ま、あり得るって言うたら俺くらいやろ」



ちょっ!!蔵ノ介先輩、今めっちゃ怖いこと言いましたけど!?ちゅーか自分で認めてまうんや。


うちは蔵ノ介先輩から少し離れる。



「…」

「アホ。冗談や、冗談。何で俺が名前襲うはずあんねん」



蔵ノ介先輩は笑って言うたけど。正直蔵ノ介先輩が言うと冗談に聞こえへん。だって結構変態やし。いつも絶頂とか言うてるし。



「部長ならもっとええ女捕まえられますしね。あ、名字は女やなかったわ」

「このクソピアス!!うちはれっきとした女や、アホ」

「2人とも煩いで」

「そんな口悪いと彼氏に嫌われるで」



財前はさらっと、からかうつもりで言ったんかもしれん。現に特に気にしたふうでもないし。
でもうちには大打撃。だってもし仁王先輩に嫌われたら…って思うと胸がぎゅうって締め付けられる。


付き合ってるのにクリスマスもお正月も一緒に過ごさへんかったし。メールはしてるけど、途中で寝ちゃったり多いし。電話はあんまりできへんし。
嫌われ要素めっちゃあるやんか。



「…そんなことないもん」

「せやろなぁ。仁王クン、実はあれで名前にベタ惚れみたいやし」

「へ?」



何、それ。何で蔵ノ介先輩がそんなん分かるん。会ったこともないはずなのに。クリスマスにほんのちょっと電話で話しただけで分かるん?



「ほんまですか?何でこんな背ぇちっこくて女らしなくて口悪いんに惚れてんや」

「うっさい、財前のアホ!!」



悪かったな悪かったな!!どーせ背ぇちっさいし、髪も短くて女らしないし、口悪いですよ。
財前に言われなくたってわかってる。わかってるもん、そんなこと。でも仁王先輩はそんなうちでも好きやって言うてくれた。



「財前、あんまり名前をいじめんなや」



謙也先輩がうちの頭を撫でて、財前を咎めた。



「謙也さんに飽きたからつい」

「俺に飽きるってなんや、どアホ」



そして謙也先輩が財前を軽く小突いて財前と騒ぎだす。新幹線内はずっとそんなんの繰り返しで。



でもうちの心にはさっき財前に言われた言葉が引っかかってた。



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