電話を一方的に切ってから顔が赤くなるんが自分でもわかった。


あぁ、もうほんまに恥ずかしい。だって名前で呼んでもうた。仁王先輩、怒ってるかな…。


だいたいうちは電話するつもりも、今名前で呼ぶつもりもなかったのに。財前が勝手に電話かけるんやもん。



30分くらい前、財前がうちの首に光るネックレスに気づいた。


「自分アクセサリー好きやなかったよな」


そう。確かにうちはアクセサリーが好きやない。
だってうっといし。なくしてまいそうで怖いし。だいたい既に女の子扱いされてへんかったからオシャレとか要らんし。


でもこれは仁王先輩にもらったもんやから。いつも身につけときたい。


「これは、もらいもんやから」


名前の入ったリングをぎゅっと握る。仁王先輩が好きでいてくれとるって証やもん。そう思うと頬が緩む。


「へー。彼氏からなんや」

「え、はぁ!?何言うてん。ちゃうよ!!」

「せやなかったらそんなキモい顔で握らんやろ」


絶対彼氏がおるなんて言わん。言うたらこの場におる半分以上にはからかわれる。蔵ノ介先輩とか謙也先輩とかユウジ先輩とか。


しかもさり気なくキモいとかいいよるし。何やねん。
自分がちょっとばかしイケメンやからって。仁王先輩には勝てへんのやからなっ!!



「彼氏、仁王って先輩なんや」

「なあぁぁあぁ!!」



無意識に口に出してもうた。ちゅうかなんでこのタイミングで無意識に口に出すねん。
いや、まぁ、仁王先輩がイケメンなんは事実やけどさ。でもそうやなくて。



「喧しいわ」



財前に頭を叩かれる。うちの叫び声に一瞬時間が止まったみたいに静かになった。あかん、先輩らにも知られた…。


「へぇ〜名前の彼氏か」

「俺より早いなんて…」

「まさか名前に惚れる男がおるなんてな」



そこ3人、黙りや!!予想通りの3人過ぎてもう笑えへんわ。
しかも財前は自分から聞き出しといてもう興味なさそうやし。なんやねん。



「なぁ、電話せぇへんの?」

「え?」

「クリスマスなんやから電話くらいしたらええやん」



蔵ノ介先輩の提案にキョトンとした。
電話…そうか、電話か。年明けるまで会えへんと思ってたけど、声は聞けるんや。文明の利器に感謝や。



「でも仁王先輩…迷惑やないかな」

「彼女からやもん、迷惑やないわよ」



小春ちゃん先輩がうちの肩に手を置いてにっこり笑う。でもなんか眼鏡光っとる。何考えてん、この人。



「その光くんよりイケメンの仁王くんとやらとお喋りしたいわ〜」

「こ、小春!?浮気か!?」



あ、そーゆーこと?いや絶対電話なんてさせへんし。何普通に話せると思ってんねん。



「なぁ、名前はその仁王って奴んこと名前で呼ばへんの?」

「え…何でですか」



いきなりな質問。きっと言うた本人も大した意味は含んでなかったやろう。



「だって俺は?」



謙也先輩が自分を指差して聞く。質問の意味がわからん。



「謙也先輩?」

「これは?」

「蔵ノ介先輩」

「あれは?」

「ユウくん先輩」

「あれは?」

「小春ちゃん先輩」

「あれは?」

「銀先輩」



謙也先輩が次々と周りにいる人たちを指差して、うちはそれに答えてく。何がしたいのかわからない。



「名前が名前で呼ばないんって千歳と財前くらいやん」

「まぁ確かに」



千歳先輩も財前も名前で呼ばれてないし、わざわざうちだけが名前で呼ぶ必要もない。
ちゅうか千歳先輩はともかく財前なんて名前で呼んだらキモとか言うやろうし。



「彼氏は?」

「…仁王、先輩」



仁王先輩。うちは名前で呼んでない。勿論名前を知らんわけちゃうよ。雅治、やろ。
知っとるけど仁王先輩を名前で呼んでる人見たことないし、うちが呼んでええんかわからん。



「おかしない?」



でも謙也先輩に指摘されて確かにとも思う。他の男は名前なのに彼氏は名字って変かもしれない。
けどなぁ…今更名前で呼ぶんも恥ずかしいやん。



「謙也、察してやりや。名前は恥ずかしいて呼べへんのや」

「あ、あぁそうなん!?余計なこと言うて堪忍な」



慌てて謝る謙也先輩。いや、ちょっと待ち。あながち間違ってはないけどうちだって名前でくらい呼べるし。



「別に恥ずかしがってなんかないです!!名前でくらい呼べますよ」

「そんなん言うてー」



蔵ノ介先輩がうちをからかいの目で見る。
あぁ、うっとい。だいたい名前で呼ぶだけやのに何がそんなに大変やねん。絶対平気。なんも問題なしや。



「名字、携帯貸し」

「あ、うん。はい」



蔵ノ介先輩や謙也先輩と呼び方について騒いでたらいきなり財前から言われた。何の疑いもなしにうちの携帯を渡したら勝手に開いてカチカチといじり出す。



「ほら」

「え…あぁー!!」

「うるさいわ」

「だってだって…」



返された携帯は発信中。相手は仁王先輩。
どないしよう。今切ったらイタズラみたいやし、そうかと言って迷惑やったら。



「名前で呼べんのやろ」



財前はニヤッと笑った。興味ないふりして話聞いてたんか。ちゅうか勝手に電話すんな、アホ。



『名前!?』

「仁王先輩」



電話口での第一声はうちの名前。なんやそれだけで先輩らの前なんも忘れて頬が緩んでしまう。ほんま好きで仕方ないんやもん。


それから10分くらい話して、蔵ノ介先輩に携帯を取り上げられたりしながら、そろそろ切らなきゃなぁって思った時。
財前が口パクで“名前”って言ってんのがわかった。


そうや、名前で呼ぶんやった。でも急に名前なんて呼んで嫌がられたらどないしよう。でもここで呼ばないのもみんなに負けた気がするし。よしっ!!



「メリークリスマス…ま、雅治先輩」



言ったと同時に電話を切った。つまるところ言い逃げ。仁王先輩怒ってるかな。
うわ、なんやメール来た。怖い。絶対怒ってる。ごめんなさい。後で見よう。



「言えたやろっ!!」



得意気に言えばやっぱりみんなニヤニヤ。キモいっちゅーねん。



「めっちゃ恥ずかしがっとるやん」

「ま、雅治先輩。やもんな」

「ユウくん先輩、マジ真似せんといてください」



もう、恥ずかしい…。穴があったら入りたい。


頭の上に温かいもんが乗った。それは蔵ノ介先輩の手。見上げると何故か嬉しそうに笑ってた。





家に帰ってからメールを見て、真っ赤になったのはうちしか知らない。



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