来た来たー!!ただいま大阪!!おかえりうち!!4ヵ月ぶりの大阪や。


荷物を親に預けてまず向かうんは夏まで通ってた高校。
先輩らには帰ってくるん知らせてないから吃驚するやろうな。



「うわ…名字の蜃気楼が見えるわ。朝から最悪や…」



校門の前で会ったのは財前。何でやねん。まずはやっぱり蔵ノ介先輩に会いたかったっちゅーねん。


しかもこいつ最悪や言うた。いっぺんシバいたろか。



「蜃気楼ちゃうわ。本物や!!しかも最悪ってなんや、最悪って。このクソピアス!!うちかて最初に会うたんがあんたで最悪やっちゅーねん」

「あー、謙也さん並みに喧しいわ」



財前はうちを通り過ぎて校門をくぐる。え、めっちゃ反応薄いんやけど。もっと感動とかないんか。



「ちょっ!?財前待ってよ」



前を歩く財前を追う。と、財前が急停止して振り返った。



「っぶ」



見事に財前の胸あたりに顔がぶつかる。急に止まんな。鼻めっちゃ痛いわ。



「関係者以外立ち入り禁止やで」



そっか。うちもうこの学校の関係者やないんや。勝手に入ったらあかんのか。



「うぅ…」

「財前、その辺にしたり。名前が泣きそうや」



財前の背後からした声は優しくて。聞き慣れた声。



「蔵ノ介先輩〜。財前が苛めるー」

「おぉ。蔵ノ介先輩が財前やっつけたるからなぁ」



蔵ノ介先輩に抱きついて泣いとるふりをする。蔵ノ介先輩もノってくれてうちの頭を撫でてくれる。



「アホらし」



財前は相変わらず冷めた反応。でもそれすらも懐かしい。つか顔は笑ってるし。



「で、何で名前が居るんや!?」



蔵ノ介先輩は頭を撫でるのを止めてうちから離れた。そして目を丸くして驚いた顔をした。



「帰省です。暫くこっちに居るんで挨拶しよう思って」

「さよか!!ほならみんなにも会って行き」



蔵ノ介先輩はうちの手を引いて学校に入って行く。


校舎とかそういうんも全部が全部懐かしい。たった4ヵ月しかたってないのに随分昔に感じる。



「おはようさん」



蔵ノ介先輩が部室のドアを開けるとみんなが口々に挨拶を返す。



「今日はスペシャルゲストがおんで」



蔵ノ介先輩に促されて部室に入るとみんな驚いた顔をした。そうそう、この反応を待ってたんや。



「お久しぶりですー」



と挨拶すると先輩らがわらわらと寄ってくる。



「久しぶ…」

「名前!?4ヵ月で帰ってくるなんて俺に勝る速さやで」

「ぶっさいくなん変わってへんな」

「ユウくん、黙りなさい。名前ちゃんは可愛えんやから」

「小さかままやねー」



銀先輩と小石川先輩の落ち着いた挨拶がかき消されて煩い4人に囲まれる。
尚も彼らの口は動きっぱなし。言いたい放題言いやがって…



「うるっさいねん!!4ヵ月で帰ってくるわけないやろ、ただの帰省です!!不細工とか大きなお世話やっちゅーねん!!それと、うちが小さいんやなくて千歳先輩がでかいんや!!」



文句への反論を一息でしてふぅっと息を吐く。そしてうちはにっこり笑った。



「ほんまこの空気、久々やなぁ…」



今の学校が、立海が、楽しくないわけやない。
だって仁王先輩居るし。先輩らみんな優しいし。赤也もなんだかんだ仲良いし。


でも何年も住んでた大阪。
中学時代お世話になった先輩。生意気でちょっとムカつく同級生。
それが楽しくないわけがないやん。



「今の学校楽しいん?」



蔵ノ介先輩がうちの頭に手を置いて笑顔で聞く。ほんまかっこええなぁ。仁王先輩には劣るけど。



「はい。めっちゃ楽しいですよ」

「そら良かったわ」

「こら、白石。良い兄貴面すんなや!!」



兄貴。うん、先輩らはみんなうちのお兄ちゃんみたいなもん。財前は…まぁ、悪友くらいにしといたろ。



「そーや!!名前、明日俺らクリスマスパーティーするんやけど、けえへん?」

「いいんですか!?」

「もちろんよ〜。名前ちゃんなら大歓迎」

「小春ぅ〜、浮気か」



うちは蔵ノ介先輩を見上げた。みんながええって言っても蔵ノ介先輩の許可がおりなきゃあかん。


蔵ノ介先輩は笑顔で頷いた。それは勿論OKの合図。



「やったー!!」

「うっさ」

「だってクリスマスパーティーやで、財前!!」

「別に普通やんか」



ううん、普通やないよ。うちはこのメンバーで何か行事をするんはもうないって思ってたから。


本当は仁王先輩と過ごしたかった。大阪に来る前日、うちに会いに来てくれてキスしてくれて、好きって言ってくれたんが幸せすぎて。
大好きな仁王先輩と一緒にいられへんこと、すごく寂しかった。


そしたらプレゼントくれて。それは今はうちの胸でキラリと光っとる。
仁王先輩とお揃いのネックレス。お揃いとかめっちゃ嬉しかったんやで。


立海のみんなとも今年は会えへん。次に会うのは年が明けてから。
クリスマスはただ家族と何の変わりもなく過ごすと思うてた。
だから喜ばずにはいられへん。




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