終業式が終わってうちはすぐに帰宅した。 今日は仁王先輩の部活が終わるを待つ時間はない。明日の朝には大阪に向けて出発するから準備をせなあかん。 仁王先輩にはせっかく用意したクリスマスプレゼントも渡せないし、正月も一緒に過ごせない。 けど先輩らに会うのが楽しみで仕方ないんや。4ヵ月は会うてないからみんな変わっとるかもしれへん。 うちは彼氏ができたからって可愛くなるでもなんもなくて。相変わらず髪は短いし、言葉遣い悪いし、百歩譲っても可愛えとは言えない。仁王先輩はそんなうちのどこが好きなんかわからへんけどきっと聞いても答えてくれない。 だから不安ではある。10日間近くも会わんでその間に仁王先輩が他の女の子好きになってしまったら、とか。 でもその都度、仁王先輩は部活で忙しいから女の子構っとる暇なんかあらへんって不安を打ち消す。 「忘れもんは…」 一度詰めた荷物を漁って忘れもんがないかチェックしてる時に携帯が鳴った。 大好きな曲で、大好きな人に設定してる曲。ディスプレイすら確認せずに電話に出る。 「仁王先輩!?どないしたんですか?」 実は今まで一度も仁王先輩から電話が来たことはない。だいたいメールで済むし。だから吃驚した。 「ん。今暇?」 「大丈夫ですよ」 部屋の時計を見れば7時近い。多分部活が終わってすぐに電話しとる。そんな急ぎの用なら学校で言うてくれればよかったんに。 「その、な…」 「はい」 珍しく仁王先輩の歯切れが悪い。どないしたんやろ。詐欺師とも言われる人なのに。 「今から会いたいんじゃが…」 「はい…ってえぇ!?」 「そんな驚かんでもええじゃろ」 「いやいや、だってもう時間が時間やし。うちは構わへんけど仁王先輩が帰んの遅うなるし」 学校からうちまで40分以上はかかる。下手したら仁王先輩が家に帰るのはいつもより相当遅うなるかもしれん。部活で疲れとるのに無理さしたらあかんやん。 「平気じゃ。行くから待っときんしゃい」 「ちょっ…仁王先輩」 電話は切れた。ほんまに来る気らしい。 会いたいと思ってくれるんは嬉しい。年明けまで会えないから今日で今年最後の仁王先輩。 そう思ったらこんな格好で会ったらあかん気がしてきた。 うちの今の格好は上下スウェット。可愛さの欠片もない。 絶対あかん。 慌てて洋服を引っ張り出す。 ジーンズ?パーカー?いやそれも可愛ない。じゃあ何着たらええんや。 デートするわけでもない。たった2、30分話すだけやろう。気合い入れすぎんのもあかんし。 服を引っ張り出して着てみては却下しを繰り返していたらメールが来た。相手は仁王先輩。 「げっ…もう着いたんや」 うちは服が決まらへんから待ってって返信した。ものっそい速く。それはもうスピードスターの謙也先輩も吃驚するくらい速い。腐っても女子高生舐めんなや。 またメールが来た。 『服なんてどうでもよかよ』 そんな訳にはいかへん。デートもろくにしたことないから制服以外で初めて会う。まぁ、仁王先輩は制服やろうけど。初めて会うんが上下スウェットはさすがにまずいやろ。 『あきませんて。スウェットやもん』 『ええって。寒いナリ』 ああそっか。仁王先輩、今玄関先で待っとるんや。12月末の寒さは身に染みるやろう。 「あー、もうええ!!」 スウェットに適当なコートを羽織って玄関を開けた。うちの門の横に見える銀髪の後ろ姿がドアの開く音で振り返った。 「寒い」 チェックのマフラーに顔をうずめて、手はポケットの中。寒い中待たされたせいか少し不機嫌そうで見た目はまるでガラの悪いヤンキーや。 「すんません。しかもこんな格好で」 「急に来た俺が悪いけぇ気にせんでよか」 ちょっと歩かんか、と言って歩き出す。 何をしに来たのかわからんけどうちはとりあえず付いて言った。うちの近くの公園に付いて仁王先輩の足はやっと止まった。 「明日から大阪じゃろ?」 仁王先輩はブランコの柵に座って荷物を下ろした。うちも隣に座った。 「はい」 「…」 仁王先輩は何も言わんと黙り込んだ。沈黙が続いて、うちはぼーっと空を見上げてた。 「あー…」 やっと声を発した仁王先輩に視線を移す。仁王先輩は大きく息を吐いて、一瞬ぎゅっと目を瞑った。なんやその仕草が少し可愛くてうちは笑ってしまった。 「なんじゃ」 笑われたのが気にくわなかったのか仁王先輩は眉間に皺を寄せる。 「うちだけやなぁって思ったんです」 「何が」 「仁王先輩をこんなんさすの」 いつもならきっとこんなに感情を表に出さない。そりゃうちは長い時間仁王先輩といたわけやないから、はっきりはわからんけど。 でも詐欺師仁王雅治がこんなにもらしくない姿を晒すんは多分うちに対してだけやと思う。 「それ、みょうじにも言われた」 不服そうな顔をして目をそらした。みょうじ先輩が言うんやから事実なんやろう。 うちを好きでいてくれてんや。嬉しいな。 「名前」 仁王先輩は立ち上がってうちの前に立った。そしてうちに後ろを向いて目を瞑るように指示した。言われた通り仁王先輩に背を向けると何かが首に触れた。 その瞬間、うちの体は仁王の匂いに包まれた。後ろから抱きしめられとる…。 「なな何!?」 一度離れて前からまた抱きしめられる。あぁもう、心臓保たん。 「好いとうよ」 耳元で仁王先輩の声がした。仁王先輩の腕に力が入って、うちも仁王先輩の背中に腕を回す。 うちらは唇を重ねた。寒い筈なのに急に体温が上がる。寧ろ暑いくらいに。仁王先輩の鼓動にうちの鼓動も同調する。 「…どないしたんですか」 急に会いたいって言ったり好きって言ったり、仁王先輩らしくない。 「他の男んとこ行くな…」 小さいけど確かにそう言った。仁王先輩もうちと会わないん気にしてくれてんやろうか。それなら嬉しすぎる。 「行かへんよ。うちには仁王先輩しか考えられませんもん」 「ならそれ外すんじゃなかよ」 仁王先輩の視線はうちの首。うちもその先を見たらリングのネックレスがあった。吃驚して仁王先輩を見たら頬にキスされた。 「クリスマスプレゼント」 まだ23日じゃけどって笑った。その首にはうちの首にあるんと同じリングがあった。 仁王先輩からクリスマスプレゼントなんて嬉しすぎる。しかもペアなんて。顔にやけるわ。 リングを手にとって見ると中に文字が彫ってある。えーっと… 「後で見んしゃい」 仁王先輩はうちの手からリングを離させる。その顔は赤い。何書いとんのやろう。 「今見たい!!」 「ダメじゃ」 「ケチ!!」 「名前が彫ってあるだけナリ」 頬を膨らまして怒った素振りを見せても意味はない。まぁええや、後で見よう。 「うちもプレゼントあるんです」 手渡した袋の中身はタオルと髪を結わくゴム。立海のテニス部はパワーリスト外されへんって聞いたからリストバンドはやめた。 「大したもんやないんやけど…」 仁王先輩のんに比べたら相当見劣りするけど一生懸命選んだんや。 「…ピヨッ」 これは喜んでくれてるって思ってええよね。 . |