M.Nioh side




正直俺の誕生日なんてどうでもええんじゃ。一つ年をとったからって何が変わるわけでもない。



でも名前が気にかけてくれたのは嬉しかった。プレゼントだとか必死に考えてくれとる姿がどうしようもなく愛おしい。



「彼女のいる仁王にはとても残念なお知らせをしようか」



今日は練習はなくてミーティングだけだった。


幸村がプリントを配りながらニコニコと笑う。勿論黒い笑いじゃ。


プリントには冬休みの日程が記されていた。



「見ての通りクリスマスは部活あるからね」



プリントを見ても休みという休みは見当たらない。一応正月は休みみたいじゃが、それ以外は本当に毎日ある。


これじゃ名前には殆ど会えんな。



「…そうじゃよな」



予想はしとった。まぁ、毎年じゃから。
でも無理だとわかっていても彼女が居ると一緒にいたい。そう思うのはしょうがないこと。



「ドンマイ、仁王」



丸井がニヤニヤと笑った。うざい。



「ブンちゃん、彼女がおらんからって僻んどるようにしか聞こえんぜよ」

「るせぇっ!!」



わぁわぁうるさい丸井をシカトしてもう一度日程を見る。


休みは正月だけ。イブもクリスマスも一日中練習…いや、クリスマスは午前だけだ。
顔が一瞬にやけてすぐに戻す。



「幸村」

「何?」

「…いや、何でもなか」



今言って、じゃあ午後もやろうなんてことになったら洒落にならん。一日中一緒にいることはできなくても午後だけは一緒にいられる。



「よかったですね」

「ん?あぁ」



隣に座る柳生が俺の考えを読みとったのかにっこり笑う。柳生は俺が気持ちを隠せない人間の一人じゃ。



「…―以上だ。解散」



連絡などを全て終えて真田が解散をかける。俺はすぐに荷物を纏めて名前の教室に走った。


勿論、クリスマスの午後誘うために。



「名前」

「仁王先輩!!今日は早いんやね」

「今日はミーティングだけじゃから」



駆け寄って来た名前の手をとって帰路につく。


二人で帰るこの道はもう何度も通っとる。実はこの道は名前と帰るようになって初めて通った。
本来俺の登下校路は別の道じゃから。むしろ本当は反対方向。


初めて名前を家まで送った時から名前が好きだったから、俺は敢えて事実を知らせとらん。



「もうすぐ冬休みですよね」

「そうじゃな」

「毎日部活ですか?」

「正月以外はな」

「せやったらほとんど会えへんね」



言うなら今しかない。クリスマスの午後だけでもデートせんかって。


思えば帰りにこうやって一緒に帰る以外でデートなんてしたことない
。俺の部活が忙しいせいじゃ。それでも名前は一度として文句を言ったことはない。



「あのな…」

「うちも大阪に帰るんですよ」

「は?」

「24日から3日まで」



立海の終業式は12月23日。つまりは次の日には大阪に向かっとる。
クリスマスも正月も大阪で過ごすらしい。話を聞いとると親の実家で過ごすのが毎年恒例なんだとか。


その顔はすごく嬉しそうじゃった。嬉々としてそんなことを言われたら俺は何も言えん。


一緒に過ごしたいとか思って浮かれてたんは俺だけか。



「せやから冬休み入ったら次に会うのは年明けですね」

「そーじゃな」



こんなことなら部活があればよかったのに。そしたら会えない理由になった。
部活もなくて彼女とも会えないクリスマスなんて寂しすぎる。










「…」

「何、また何かあったの」



休み時間に机に突っ伏して寝ていたら結わえた髪を引っ張られた。
普通なら拒否するとこじゃが、もうそれすらもする気にならん。どーせみょうじじゃし。



「…フられた」



突っ伏したままぼそりと呟く。



「はぁ!?」

「クリスマスデート」

「なんだ、そんなこと」



吃驚して損した、なんて言いながら隣の席の椅子を引く音がした。みょうじはまだ俺の髪をいじってる。


いい加減ウザくなって起き上がるとみょうじはニヤニヤ笑ってた。それを俺は睨みつける。



「恋をすると仁王もこんなんなっちゃうんだな。詐欺師の名が泣くね」

「うるさいのぅ」



罰が悪くなって目をそらす。余計なお世話じゃ。



「みょうじはどうするんじゃ」

「あたし?多分今年も同じ」

「ほぅ」



同じとはみょうじの昔の仲間と過ごすこと。おそらくめったに会わない彼らと会うのは楽しみなんじゃろう。


だから赤也と過ごしてやらんのか、とは言えない。みょうじは赤也の気持ちは知らないし、気づく気配すらないから。



「ま、あたしを誘ってくれる奴なんてあいつらくらいしかいないからな」



それが他にもいるってなんで気づかん。他のことには敏感なくせに。



「彼氏の仁王より大切な用事って何なの?まさか浮…」

「違う。大阪帰るんじゃ」

「なーんだ、つまんね」



浮気なはずはない。俺たちは相思相愛。想い合っとる。
名前がそんなことするなんて有り得ん。



「でもさ、仁王より大阪にいる彼らを優先したことになるじゃん。ちゃんと捕まえてないと盗られるかもよ」



ニヤッと笑って俺に爆弾を落とした。それもかなり大きな。


大阪にいる彼らって中学の先輩って奴らか。確かに名前が楽しそうに話してた記憶はある。


いや、でも、ないない。そんな心変わりとか絶対ないじゃろ。



「ま、気をつけた方がいーんじゃない」



みょうじは悶々と悩む俺を見て席を立った。



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