いつも仁王先輩が迎えに来てくれる。


付き合うたからって何が変わるわけでもなかった。


一緒に帰るんも、話す内容も。相変わらず冗談も多いし。


そんなんで1ヵ月が過ぎた。



「寒い…」

「冬なんやから当たり前です」


今は11月も末。2、3日もすれば12月になる。寒いんは当たり前。



「俺は暑いんも寒いんも嫌いじゃ」

「知ってます」



仁王先輩は手を繋いでニヤッと笑った。



「けど名前の手は温かくて好きじゃよ」



キュッとうちの手を握って距離を詰める。


うちは緊張して顔を赤くした。



「おーおー、見せつけてくれるじゃねぇか」

「何でこいつなんスか、仁王先輩」



テニス部員に会ってブン太先輩と赤也が反応を示す。


柳先輩はノートに何か記して、ジャッカル先輩と柳生先輩は笑顔を作っていた。皇帝は渋い顔をして、部長は黒い笑顔を浮かべた。


みんななんて想像通りの反応なんや。



「詐欺師も恋をするんッスね」

「悪魔も恋をするんじゃな」



仁王先輩は即座にニヤリと笑って言った。そのニヤリ顔は意味深や。


悪魔とは赤也のこと。恋っちゅうことは赤也には誰か好きな人がおるんやろうか。



「いいいつから…!?」



あからさまに同様するあたり、赤也はまだまだ仁王先輩には勝てへん。



「俺が気づかんと思っとったとはのぅ」

「くっそ…」

「仁王先輩、赤也の好きな人って誰なん?」



気になって聞いたら仁王先輩は悪戯っぽく笑った。



「それはじゃなー」

「名字の知らねぇ人だよ!!仁王先輩、内緒ッス」



赤也は慌てて仁王先輩に口止めをした。
仁王先輩はクツクツと笑う。



「じゃあのぅ、俺たちは帰るぜよ」



うちの手を引いて楽しそうに歩き出す。今日は機嫌がいいらしい。


うちは先輩たちに軽く挨拶をして仁王先輩について行く。


少しした所で仁王先輩はピタリと止まって絡めていた手を離す。


何なに!?さっきまでルンルンやったのに急にどないしたんや。


仁王先輩は自分のマフラーを外してうちの首に巻き付けた。



「なな何!?」



されるがままにマフラーを巻かれ、うちは呆然と仁王先輩を見つめる。


うちは顔が真っ赤になるのを感じた。


やって、マフラー…。仁王先輩の匂いするし、暖かいし…



「寒いじゃろ」

「仁王先輩のが寒い言うてたやないですか」



寒いの嫌いやって言うてたのに。確かにうちも寒いけど、マフラー持って来てない自分が悪いし。



「俺は男じゃき問題なか」



ほら、いくぜよって言ってまたうちの指に自分の指を絡めた。


仁王先輩の手はひんやりと冷たい。やっぱり寒いんちゃうかな…。



「でも仁王先輩が風邪ひいたらアカンし」

「そしたら名前が看病してくれればええんじゃよ。それはそれで俺にはおいしいシチュエーションじゃし」

「仁王先輩のアホ」



マフラーを空いてる手で掴んで仁王先輩を見上げる。やっぱり寒そうで鼻が少し赤い。


うちは繋いでない方の手を仁王先輩の腕にまわし、ぴったりとくっつく。これで少しは寒ないかな。


ブレザーの上からでも筋肉がついてることがわかる程逞しい腕。なのに白いから全然マッチョには見えない。これが所謂細マッチョなんやろうか。



「お前さんは…はぁ…」

「え、何でここで溜め息つくんですか!?」



仁王先輩はうちを一瞥した後、顔を逸らした。


嫌…やったんかな。人前やしそうかもしれへん。



「…すんません」



うちは元の距離に戻そうとして腕から離れた。手は繋いだままやけど。



「何勘違いしとるんじゃ」



逸らした顔をうちに向けてじっと見つめる。


勘違いしてへんし。嫌なんやったらそう言ってくれたらええのに。



「別に名前にくっつかれんのが嫌なんじゃなかよ」

「じゃあ、何で溜め息ついたん?」



仁王先輩は顔を赤くして言いにくそうに呟いた。



「その…胸がな…」

「…!!に仁王先輩の変態!!アホ!!」



わざとやない。胸があたるなんて。
そんなん言わんといてよ。恥ずかしなるやんか。



「あんなん誘っとるようにしか思えん」

「誘うてない誘うてない誘うてない」

「そんな否定されるんも傷つくわー」



俺とはヤりたくないってことじゃろ?って言われてうちは茹で蛸状態。


そんなん考えたこともない。まだ付き合って1ヵ月。キスやって片手で数えられるほどしかしてないのに。



「ええと、まぁ、それは…」

「ククッ」



仁王先輩は可笑しそうに笑う。



「またからかったんやな!?」

「冗談じゃ。寒いからくっついとって欲しいなー」

「嫌や」



ツンと顔を背けて素っ気なく言うと仁王先輩からくっついてきた。見上げると嬉しそうに笑ってた。



うちもやっぱり仁王先輩に勝てへん。