授業中も休み時間もぼーっとしとるんはきっと気のせいやない。
何をやるんにも気が入らなくて先生に何度か注意もされた。


原因は仁王先輩。何かされたわけやないねんけど気になってしょうがない。
いつもどうせからかっとるだけやってわかってるのに心臓がドキドキとうるさい。



「名前ー」

「うわゎっ」



廊下を歩いてたら後ろから肩に手が置かれた。見上げると幸村部長が居った。



「何してるんですか!?ここ1年生のクラスやのに。赤也ですか?」



教室では赤也がクラスの男子と楽しそうに喋っとる。



「いや、赤也じゃない。少し名前に話があってね」

「うち?」

「ちょっとおいで」



言われてついて行く。


何でうち?何かしたっけ?いや、誓って何もしてへん。
むしろ幸村部長なんて恐ろしうて何もできへんし。



「仁王に何かした?」

「はぃ!?」



何かってなんや。うちが聞きたいわ。
そもそも何でうちが疑われんねや。



「最近どうも絶好調過ぎておかしいんだ」

「え、絶好調って別にええですやん」



それが何故うちのせいになるんや。
仁王先輩とはただの先輩後輩で、それ以上でも以下でもない。



「構わないんだけど、鬱陶しいんだ」



黒い笑いを浮かべて、鬱陶しいって。
おいおい、それは言ったらアカン。



「何でうちなんですか?」

「え?」



幸村部長はキョトンとして驚く。
あれ、うち変なこと言うたかな。当然の疑問やのに。



「だって名前は仁王のこと好きだろう?」

「はぁ?」



好き?すき?SUKI?
うちが?仁王先輩を?好き?


ないないないない。
だって仁王先輩は詐欺師やし。いつもからかってるだけやし。



「違います!!何言うてるんですか」

「じゃあ、例えば仁王に彼女がいたらどう思う?」

「彼女…」



ズキン…‥



え、何で今ズキってしたんや。
仁王先輩に彼女ができたって別にうちには関係ない、はずやのに。



「ほら、その顔」



どんな顔やねん。


うちの頬を指でつつく。絶対面白がってる。



「安心しなよ。仁王に彼女なんていないから」

「うち、仁王先輩のこと…」



好きなん?仁王先輩は詐欺師の先輩で、それやのに好き…



「自分の気持ちに気づいてなかったの?鈍感だなぁ」



幸村部長はクスクスと笑う。



「端から見たら、どう見ても好きなのに本人は気づいてないだなんて」



名前はわかりやすいよ、と言って肩に手を置かれた。
それから幸村部長は散々人に爆弾落として何もなかったかのように去って行った。


うちが仁王先輩を好きなんて考えもせんかった。
男をそんなふうに見たことないし、ましてやあの仁王先輩。
詐欺師でどこまでが本気でどこまでが冗談かわからない人。