付き合うとかそんなん考えたこともない。


うちの周りに居った人らは俗に言うイケメンばっかりやったけど、全然そういう気持ちにはならんかった。
今だってそう。テニス部の人らはみんなかっこええと思うけど、好きとか付き合いたいとか思ったことはない。



「柳生先輩が?」

「そうなんよ」



授業間の休みはたいてい誰かと話してる。
女子も男子も話すけど多分赤也と話してる時が一番多い。



「へぇ…」



意味深にニヤリと笑う赤也はどこか楽しそう。



「何?何かあるの?」

「柳生先輩、名字のこと好きなんじゃねぇの?」

「…は?」



突拍子もないことを言われて思わず聞き返した。
だって好きって。柳生先輩やで。そんなんあり得へんやろ。



「だってあの人が女子にそんなこと聞くって珍しいぜ」

「ないない、あり得へん。赤也に言うたうちがアホやった」



わざと大袈裟に溜め息をついて首を横に振った。ついでに額を手で押さえる。



「んだと!?だったら柳先輩にでも聞けよ。そういうデータも知ってるかもしんねぇし」



そっか、蓮二先輩か!!あの人なら何でも知ってそうや。
早速今日の昼休みに聞きに行こう。



「せやな。アホの赤也なんかに聞くより何倍も頼りになるし」



うるせぇって言って頭を叩かれた。そんなんももう日常茶飯事やけど。



「名字ー」



次の授業は英語で、チャイムも鳴ってへんのにもう来とる英語の先生こと担任がうちを呼んどる。


無視や、無視!!
ここで気づいたらアカン。あの人うちに雑用押し付けて楽しんどるもん。今日こそは雑用なんてやらへん。



「教師を無視するとはいけないな」



しまった。これやったらあいつの思うツボや。
どーせまた面倒増やされるだけやんか。今からでも返事…



「プリント倍にしてやろう」

「はぁ!?」

「なんだ、聞こえてるじゃないか」



あー、やられた。倍とかただでさえ苦しんどるのに。



「あと委員会忘れるなよ」



そんだけなん!?
最初から返事しとけば良かった。そしたらプリント倍なんてされずにすんだんに。



「ぷっ、墓穴ほってやんの。俺を馬鹿にした罰だな」

「うっさい、アホ!!」



うちは赤也の足を蹴って頬杖をついた。





昼休みに蓮二先輩を訪ねたら予想外だと言って笑った。
内容を話せば興味深いとノートにペンを走らせた。
何か書いた後にノートを閉じてうちに言ったのは、多分柳生先輩はそんな気持ちを持ってはいないってことやった。



「…やって。変なこと言うなや」

「俺は可能性言っただけじゃねぇか」



赤也に蓮二先輩の見解を報告したら逆ギレされた。何やねん、こいつ。



「そこのお馬鹿コンビ」



担任がプリントを差し出す。
明らかにうちのは赤也のより多い。ほんまに倍にしてきよった。



「コンビじゃねぇし」



赤也はプリントを受け取りながら文句を言う。


そこなんや。自分が馬鹿なんは否定せえへんのやな。
でもうちは呑気にそんなことは言えひんかった。
原因はプリント。めくって見れば地獄が見えたから。



「先生、何でですか!?」



うちはとあるページを開けて先生の目の前に突き出す。
だって先生は英語の教師やん。それなのに何で数学のプリントが入ってんねん。



「おー、それな。数学の先生が是非にって言ってな」



あんのハゲ!!何してくれるんや。
うちは何を隠そう英語よりもっと数学が苦手や。そらもう壊滅的なほどに。



「苦手克服頑張れよ」



ムカつくような笑顔で言って先生は教室から出て行った。



「頑張れよ」

「うるさいわ」



赤也は先生の真似をしてうちを笑う。そして部活に行ってしまった。
二人とも他人事やと思って…。


とりあえず英語からやるか。まだましやし。
数学は誰か頭良い人にでも聞こう。