ブン太先輩からメールが来て駅に向かう。
制服で行くわけにもいかないから相応なお洒落をした。


休みの日に出かけるなんていつぶりやろう。
四天宝寺でも日曜日は部活やから部活帰りに寄り道は仰山あったけど、わざわざ出かけたりなんかめったにせえへんかった。


だから別に好きな人に会うわけでもないのに、お洒落をしただけでうちはウキウキしてた。
待ち合わせ場所は立海の最寄り駅。どうやらブン太先輩は部活帰りにそのまま行くみたいや。



「よぉ」



壁にもたれてガムを膨らましていた赤い髪はよう目立つ。時折パチンとガムが割れる。



「待ちました?」

「いや。呼び出したの俺だし」



行くかと言って目的地を目指して歩きだす。そこは駅から案外近かった。


自動ドアが開いて中に入ると何人かはケーキを食べている。
空いてる席に座ってメニューを見るとどれもこれも美味しそうなケーキの写真が並んどる。


うちが悩んでんのと一緒でブン太先輩も真剣な眼差しでメニューとにらめっこしてた。



「悩みますね」

「ほんとだな。どれにすっかな」



悩んでるブン太先輩の姿が金ちゃんを思わせた。一生懸命考えとるとこなんてそっくりやし。


結局うちはチョコレートケーキでブン太先輩はチーズケーキにした。


ケーキが来るのを待つ間、ブン太先輩は今日の部活のこととかを一人話しとった。
うちはそれに相槌をうったりたまに笑ったりしてた。



「チョコレートケーキとチーズケーキになります」



店員さんがうちらの前にケーキを置く。写真より全部美味しそうやん。
ブン太先輩はもう食べ始めてて、美味いと言いながらケーキを頬張る。



「なぁ、それ一口くれよ」



うちのチョコレートケーキをキラキラした目で見とる。
食べようとしてたフォークの上に乗ったそれをそのまま差し出す。



「いや〜これはマズいんじゃね…」



言いたいことはわかる。せやけどうちとしてはチョコレートケーキにチーズケーキに使ったフォークを刺されるんが嫌やった。
妙なとこ細かいな、自分。



「うち間接キスとか気にしいひんし。大阪じゃ普通やったから。どーぞ」



夏場とか普通に回し飲みとかしてたし、お菓子を一口もらったりとかもようあった。
今更間接キスなんて言わない。



「じゃ、もらいっ」



うちのフォークからチョコレートケーキが消えた。
こっちも美味いとか言って幸せそうに笑う。ブン太先輩の幸せってちっさいな。



「何かカップルみてーだな」



食べ終えてしばらくしてブン太先輩が呟いた。



「そうですか?うち大阪でようやってましたけど」



大阪に居ったときは財前のぜんざい勝手に食べたり、金ちゃんのたこ焼きもろたりしてた。
いろんなもん交換して食べとったな。
それでも全然カップルなんて感じしなかったんは、きっとそういう気持ちがなかったからや。どっちかって言うと兄弟的な感じやし。



「お前妹みてー」

「それは喜んでええんですか?」

「おぉ」



パッチンとウィンクする。
なんやそれがすごく可愛く見えた。先輩なのに。



「またケーキ食いに行こーな」

「ほんまですか?今度美味しいお店連れてってくださいね」



約束なって笑ってうちを送ってくれた。仁王先輩とは違って駅までやけど。


楽しかった半日を思い起こして上機嫌で家に帰る。





まさか今日、仁王先輩に見られてたなんて思いもしいひんかった。