一ヶ月もすると立海での生活にも慣れた。


何だかんだで仁王先輩が教えてくれた図書室の席でテニス部の練習を眺めるのが日課になっていた。
そうしてると仁王先輩が迎えに来てくれたりしてテニス部と帰ることは多くなった。


おかげでテニス部レギュラー陣はみんな知り合いになった。
幸村部長、皇帝、蓮二先輩、ブン太先輩、ジャッカル先輩ともよう話すようになった。
もちろん柳生先輩や仁王先輩、赤也ともめっちゃ話すけど。赤也に至ってはクラスでも一緒に居ることが多い。


今日もまた図書室に来た。相変わらず人は少ない。
指定席と化している例の席に座った。筆箱からシャーペンを出してノートの上を滑らせる。


勉強しながらテニス部を眺めていたら6時をまわって夕方になっていた。



「名前」

「あれ?ブン太先輩や」



後ろから声をかけられて振り向くと制服姿のブン太先輩がガムを膨らまして立ってた。
いつもなら来てくれるとすれば仁王先輩が来るから少し驚いた。



「今日は仁王先輩やないんですね」

「仁王がよかったのかよぃ」

「別にー」



シャーペンをクルクルと回す。
そういやペン回しは謙也先輩の十八番やったな。うちも謙也先輩に教えてもろたんやったっけ。


机に出てるものを全部鞄に入れて立ち上がる。
ブン太先輩がうちの鞄を持ってくれた。驚いて見上げると意味深に笑ってた。



「今日だけ特別だからな」

「何か変なもんでも食べたんですか?」

「うっせーよ」



ブン太先輩と並んで階段を下りて行く。ブン太先輩は相変わらずガムを膨らましながら。



「お前さ、明日の午後暇?」


明日は日曜日。勿論学校は休み。
でも立海テニス部はきっと部活やろう。



「暇やったら何ですか?」

「新しい店のケーキ食いに行かねぇ?」



それを誘うために今日はブン太先輩がうちを迎えに来たのか。
ブン太先輩は甘党やからきっと新しく隣町にできたケーキ屋さんに行きたいんやろう。



「うちでええんですか?テニス部の人とか…」

「赤也は用事あんだと。他はあんまり甘いもん食わねぇし」



確かに幸村部長や蓮二先輩ならまだしも皇帝とかが可愛らしいケーキとか食べとったらひくわ。似合わなすぎる。



「何笑ってんだよ」

「いや、皇帝がケーキ食べとるの想像したら笑えて」

「まず真田なんか誘わねーから」



ケーキが不味くなるとかケーキに失礼だとか真面目な顔で言っとる。
それがまた面白くて笑った。
でもあんなしかめっ面で目の前で食べられたらそうかもしれへんな。



「明日の午後ですね。行きましょう」

「マジ!?よっしゃ」



ブン太先輩はすごい嬉しそうにガッツポーズをした。
そして思い出したようにポケットから携帯を出した。



「連絡すんのにアドレス教えろよぃ」

「あぁ、はい」



うちも携帯を出して赤外線でアドレスを交換する。
さりげにテニス部の先輩のアドレスは初めてや。仁王先輩とか柳生先輩のも知らへんし。
赤也のは知っとるけど。



「部活お疲れ様です」



みんなの待つ校門に着いて、ブン太先輩から鞄を受け取った。



「名字、ブンちゃんに何もされんかったか?」

「されてませんよー」

「俺を何だと思ってんだよ」



ぎゃあぎゃあと騒いでるのは今日はブン太先輩だけ。
いつもなら仁王先輩がからかうのはブン太先輩と赤也なのに今日はその赤也が居いひん。やから今日は紅白コンビで騒いでる。



「赤也居らへんのですね」

「部活が終わってすぐに走って帰ったよ」



ふふっ、と幸村部長が怪しげに笑う。きっと何か考えとる。
幸村部長はだいぶ黒い性格の持ち主。顔はめっちゃ綺麗なのに勿体無い。



「何か言ったかい?」

「いいえ、滅相もありません…」



途中で別れて同じ方向の柳生先輩、蓮二先輩、仁王先輩と歩く。
家まで送ってくれるんはいつも仁王先輩。



「じゃあな」

「気をつけて帰ってくださいね」

「んー」



軽く手を振って通り過ぎて行く。うちは仁王先輩が見えなくなるまで見送って家に入った。