M.Nior said






ムカつく。


何で丸井とか赤也と仲良そうに話しとるんじゃ。
ムカついて名字の腕を引っ張って歩き出した。


手を掴まなかったのは勇気がなかったから。
まだ出会って2日。拒絶される可能性は十分にあった。



「仁王先輩…」

「…」



わざと反応せんかった。もっと俺を呼べばいいと思ったから。



「仁王先輩ってば!!」



少し大きな声で呼ばれて立ち止まった。無言で見ると真っ直ぐ俺を見返した。



「腕、痛いです」

「あぁ…すまん」



言われてすぐ離す。自分でも気づかないうちに強く掴んでいたらしい。
名字の白い肌の俺が掴んでいた部分だけ赤くなっている。



「どうかしたんですか?」



見上げて聞かれ、俺より15センチは小さいだろう名字を見下ろしてふぅっと息を吐いた。
そして笑みがこぼれた。



「すまん。何でもないんじゃ」

「うち何かしました?」

「名字は何もしとらん」



何かしたのはあのガムとワカメの馬鹿2人。
あんなに仲良そうに話してたのがムカついただけ。しかも赤也なんて同じクラスじゃし。



「怒ってます?」

「どうじゃろうな」



怒ってると言ったらそうなんじゃろう。でも俺には怒る権利なんてありはしない。
彼氏でもなければ友達でもない。名字にとってはただの先輩だ。
他の男と話しとるのが嫌だとか言える立場じゃない。



「仁王先輩ってわかりにくい」

「詐欺師がわかりやすくてどうするんじゃ」

「確かにそうや」



名字はカラカラと笑う。短い茶髪が風に吹かれて少し揺れる。
それが可愛くて愛おしく思うのはもう俺の心が奪われとるから。



「何かしたんやったら言うてくださいね。うちそれくらいじゃへこたれへんし」



真面目な顔で言うから可笑しくなって笑った。
名字は俺が笑う意味がわからないから不思議そうな顔をする。



「また、明日な」

「あ、もう家か…」



ゆっくり歩いていたはずなのにいつの間にか名字の家に着いていた。
また明日会いたいという意味を込めて頭を撫でた。名字が笑顔で俺を見上げた。



「好きやなぁ」



どきっとした。


好きって、つまりそういうことでいいんじゃろうか。俺のこと…



「仁王先輩が頭撫でてくれんの」



うん、まぁ、想像はついとったぜよ。
会ってまだ2日じゃし、そんなはずはないことくらいわかってた。
ただなんとなく騙されたような気がする。



「なんや大阪の先輩思い出してほっとする」



大阪の先輩って男なんじゃろうな。しかもどーせ好きな奴とかそういうオチだ。
俺に勝ち目はないんかもな。



「また明日会えるとええですね。おやすみなさい」



笑って会釈をして家に入って行った。俺は名字の家を通り過ぎて歩く。


また明日、それを聞いただけで嬉しくなる。
きっと俺は名字に嵌ってしまったんじゃろう。