部活も終わってうちも帰ろうって時、仁王先輩が図書室にやって来た。
部活が終わってそのまま来たらしくてジャージ姿だった。



「わかったじゃろ」

「ほんま詐欺ですわ」

「詐欺師じゃからな」



ふふんと機嫌よく笑うのはどうしてなんやろう。
でもそれが可愛くて、うちは笑みを零した。



「もう遅いし送ってっちゃる」

「ええですよ。まだそんなに暗ないし」



事実、まだ橙色の綺麗な夕焼け空。暗くはない。



「ええから」



頭をぽんぽんと撫でられて仕方なく頷いてしまう。


それから一緒に図書室を出て、仁王先輩が着替えるために一度部室棟に向かった。
うちは部室棟の前で仁王先輩を待つ。



「あれ、お前…」



ガムをまん丸に膨らまして部室から出てきたんは真っ赤な髪の丸井先輩。
それと黒人さん。



「赤也のクラスの奴だろぃ」

「どーも」



ニヤニヤとうちを見て笑う丸井先輩に頭を軽く下げる。
何でニヤニヤしとんねん。気色悪いわ。



「赤也待ってんのか?」



そのまま帰ると思ったのに何故か丸井先輩はうちに並んで壁にもたれる。
黒人さんもラケットバックをその場に置いて帰る素振りは見せない。



「違いますけど」



何でうちがあんなワカメ待たなあかんねや。



「え!?お前関西人?」

「それが何か?」



そんなに関西人が珍しいんか。そんなことないやろ。
仁王先輩かて方言使てるし。仁王先輩はどこの方言かもわからんけど。



「何でもねぇけど。お前転校生?」

「はい」

「俺の天才的妙技見た?」



さっきから質問が多い。天才的妙技って何。
うち今日はじーっと仁王先輩見とったから他の人は何も気づかんかった。



「なんだ、見てねぇのかよ。今度俺の天才的妙技見に来いよな」

「はぁ…」



うちの反応から察してかどんどん話を進める。
一人で話しとる姿はまるで金ちゃんみたいや。



「げっ、何でお前がいんだよ」

「切原くんには関係ないやん」



部室から次に出てきたのは切原くん。
てか人のこと見てげっ、って何やの。うちあんたに何かしたか。
何でそんなん言われなあかんの。



「さっさと帰れよ」

「待たされてんのうちなんやけど」



意味わからんという顔でうちを見る。
うちやって待ちたくて待っとるんちゃうのに。なんやねん、ほんま。
仁王先輩早よ出てきて。



「じゃから今日は反対に…」



柳生先輩と仁王先輩が出てきた。何か二人で話しとる。



「待たせたのう。帰るか」



うちの腕を掴んで引っ張る。
丸井先輩と切原くんは目をぱちくりさせて、次の瞬間、



「「はぁ!?」」



と大きな声を揃えて叫んだ。うちはとっさに耳を塞いだ。



「うっさいなぁ」

「お前仁王先輩と付き合ってんの!?」

「は?何言うてんの、付き合うてないし」



何で急に付き合うてるとかそんな話になんの。うちはただ仁王先輩の異名の由来を突き止めてただけやし。
だいたいうちは立海に来てまだ2日しかたってない。それで好きも嫌いもあるかっちゅーの。


「え、じゃあ、なん…」

「赤也、黙りんしゃい」



仁王先輩が冷ややかな目で切原くんを見ると切原くんは口を噤む。
綺麗な顔をした人程、そういう顔は怖いし効果的だ。



「じゃ、俺たちは帰るぜよ」



仁王先輩はうちの腕を掴んだまま歩き出す。うちも勿論つられて歩く。



「あ、じゃあ、また」



急いで挨拶をすると、柳生先輩だけはにっこりと笑ってた。
あとはポカーンとしてうちら2人を見てた。