朝早く、昨日夜中まで頑張った英語のプリントを提出しに行った。
昨日終わらなくて家に持って帰ったことを伝えると先生は快く受け取ってくれた。



「ついでに切原呼んできてくれ」

「まだ来てへんのと違いますか?」

「朝練してるから」



え、テニスコートまで行って来いってことなん?
めんどくさいわ。何でうちが行かなあかんねん。



「早くしろー?」



うちが嫌な顔をしてるんを知っても担任は動じない。むしろさも当たり前だという顔さえしとる。


仕方なくテニスコートに行くことにした。下駄箱で靴を履き替えて外にでる。
途端に、暑苦しい空気がうちを覆う。
9月なんて言ったって夏休み明け直後やからまだ夏や。
こんな暑い中外に長時間居ったら溶けるわ。
早いとこ切原くん呼んできてしまおう。


テニスコートに着いた頃にはもう汗だくだった。じりじりと刺すような光がうちの肌を焼いているのがわかる。


フェンスに近づいて朝練をしているであろう切原くんを目で探すけど、見当たらない。
やっぱり来てないやんか。教室に帰ろうと踵を返した時に名前を呼ばれた。



「やはり名字さんですか」

「あ、おはようございます」



柳生先輩がフェンス越しに近づいてきて、挨拶をした。



「おはようございます。どうかされましたか?」

「ちょっと先生からの頼みご…と…」



よく柳生先輩を見ると違和感を覚える。あの時、柳生先輩と階段でぶつかった時と同じ違和感。



「何か?」

「あ、いや。えーと、切原くん居りますか?」



部活の邪魔はしたくない。用事だけ済ませてさっさと涼しい室内に戻ろう。



「切原くんは今ランニング中ですね。よろしければ伝えておきましょうか?」

「せやったら担任が呼んでたって、お願いします」

「わかりました。」



朝からランニングって、昨日皇帝が言っとった30周ってやつか。切原くんも大変やな。


そんなことよりさっきの違和感は何やったんやろう。
確かに柳生先輩なのに何かが違う。うちの思い違いかもしれへんけど。



「そこの女子!!」

「はいぃ!?」



いきなりの怒号に驚く。
考えなくたってわかる。この声は皇帝のもんや。



「練習の邪魔をするとは何を考えているのだ」



ずんずんとうちに近づいて、目の前で止まる。
見上げると声だけやなくてやっぱり見た目も迫力がある。しかもやっぱり高校生には見えへん。



「真田君、彼女は切原君に伝言を伝えに来ただけですよ。邪魔なんてしていません。」



ほんまですよ。うち、邪魔なんてしてへんし。
怒られる理由もない。



「女性をむやみに怒鳴ってはいけませんよ。」

「…すまなかった」



テニスコートをよく見ると当たり前やけど知らない人もいた。
赤い髪の丸井先輩、銀色の尻尾の仁王先輩、あとは目前に居る紳士の柳生先輩に皇帝の真田先輩、うちはその4人しか知らない。



「真田先輩、」

「む?」



練習に戻ろうとしたとこを呼び止める。
む?ってどこの武士やねん。



「今日、練習見学しに来てもええですか?」



仁王先輩の忠告では皇帝に気をつけろってことやった。
せやったら先にアポとっとけばええねん。うちって頭ええな。



「邪魔をしないならな」



それだけ言って練習に戻った。柳生先輩も笑顔で会釈してから戻っていった。
うちもテニスコートにはもう用がなくなったから教室に帰った。