きみの心に触れさせて
「なまえ、さん……?」
「っ……世良くんっ?」
帰ろうとして通った廊下。
その奥で声が聞こえて近くまで行ってみると、そこにいたのはなまえさんだった。
よく見てみると頬を涙で濡らしていた。
「どうしたんスか?」
「……なんでもないよ。」
「そんな顔して嘘つかないでくださいよ。」
俺に話してください。
そう言いながら彼女の肩に手を置いてこちらを向かせる。
いつもの完璧な彼女の表情ではなく、涙でぐちゃぐちゃになった顔。
誰が彼女をこんな顔にさせたんだ。
そう思うと腹が立った。
「……付き合っている彼が浮気していたの。その現場を見ちゃって。どうしようって悩んで……まぁ、泣いてもしょうがないんだけどね。」
「っ、」
無理に笑ってそう話す彼女。
そんな顔を見ているだけでさらに辛くなった。
俺は彼女の腕を引っ張って、自分の腕の中に閉じ込める。
「世良、くんっ?」
「……俺じゃあダメですか。」
なまえさんの目をじっとみて伝える。
彼女は大きく目を開いていて、そこにたくさんの涙をためていた。
俺はできるだけ優しく彼女の涙を拭う。
「俺なら、なまえさんを泣かせない。」
きみの心に触れさせて
(卑怯だって分かってる。)
(でも好きなんだ。)