無機質な音を立てて私の前に散らばり落ちる破片。
それはさっきまで私に微笑みかけてくれていたはずなのに。
話しかけてくれていたのに。
崩れ散らばってしまったそれはもうなにも喋らない。
私はすぐに彼の傍まで近寄って、彼だったものを拾い上げた。


「ああ、どうして、」


いくら話しかけても彼は言葉を発しない。
どうして。どうしてなの。
また笑いかけて。ねぇ、あなたの声が聞きたいの。
後ろから誰かが声をかけてくれているけど何を言っているのかわからない。
不意に前が突然明るくなった。
まるで私を悪い夢から救い出すように光は私を包み込んだ。
そのとき、なんだか私を呼ぶ声がしたけれど、なんだろう。






はっと勢いよく目を開いた。
周りに見えるのはさっきまでいたところではなく見慣れた自室の天井。
少しずつと頭が冴えてきたようで、さっきまでのは夢だったとはっきりわかった。
そうか。夢だったのか。よかった。
いつのまにか溜まっていた涙が目から零れ落ちた。
するとその涙を拭き取るように指で掬われる。
視線を横へと動かすとそこには険しい顔をした加州清光がいた。


「うなされてたけど、大丈夫?」
「あ……はい、大丈夫です。」


私はゆっくりと体を起こした。
まだ少しふらふらする。
もう一度隣にいる彼の顔をみると、私はそのまま彼の頬に手をあてた。
ちゃんと暖かさを感じる。
彼は驚いた顔をみせた。


「ここに、いるんですね。」


再度確認するように両頬を包み込んだ。
すると彼は私の手の上から自分の手を重ねた。
ああ、暖かい。


「……よくわかんないけど、俺はここにいるから。」


そう言ってぎゅっと私の手を握る。
彼の存在を分からせてくれていてとても安心する。
この世界に永遠なんてものはないことぐらいわかっている。
それでも私はあなたを失いたくない。
あなたと共に、一緒に生きていきたい。

本当に嫌な夢を見てしまった。
彼に今日は遠征も内番も休んでもらって慰めてもらおう。
私はありがとうと呟いて目を瞑った。


2015.04.24




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