「白澤さま、お風呂でたよ〜。」


私はまだ乾ききっていない髪を乱暴に拭きながら白澤さまのいる居間へと声をかけた。
彼は軽く返事をしてこちらを振り向くと、ぎょっと驚いた顔をする。


「ちょっと、ちょっと!ちゃんと髪の毛、乾かさないとダメでしょ。」


そう言って部屋を出たかと思うと、すぐに戻ってきて、彼の手にはドライヤーと櫛とタオルがあった。
彼は優しく私の肩に手を置くと、自分の前に座らせて乾かす準備を始めた。
その間もキレイなんだから…大切にしないと…、などなど、ぶつぶつと小言を言っているのが聞こえた。

カチッとスイッチが入り温かい風が当たって、つい最近変えたシャンプーの香料が鼻を打つ。
優しく触れる彼の手がとても心地よくて、つい頬が緩んでしまう。
私はこの時間が大好きだ。
動かないようにじっとしていると風が止んだ。
丁寧にゆっくりと髪の波に沿って櫛で梳かしてくれる。


「いつもありがとう。」
「いえいえ。なまえちゃんの髪を綺麗にするのが好きなんだ。」


そう彼は無邪気な声で言ったように感じた。
しっかり彼の顔を見ようと体を捻ろうとするが、まだダメと阻止されてしまう。
大人しく体勢をさっきのようにすると満足そうな声が聞こえた。
そしてまた髪が彼の指の間を通る。
指の間からサラサラとこぼれて逃げて行ったり、それを掬い取ったりと、髪が白澤さまのことを弄んでいるよう。
そんな風に触られるのが心地よくて、風呂上がりということもあって少しずつ眠気が襲ってきた。
夢とうつつの間をぼんやりと彷徨うようにふわふわとして、私の意思とは別に瞼が閉じていこうとする。
眠気に逆らえず目を閉じ始めたとき、ふふっと彼が微笑んで柔らかい息が私にかかったのを感じた。


「今寝てたでしょ。」
「ん……気持ちよかったから。」
「じゃあ、そろそろ布団に行って寝ようか。」


彼は割れやすい卵のようにそっと私を抱えあげ、寝室まで運んでくれた。
そんな彼の腕の中に身を預け、頭の中で睡眠モードにスイッチを入れ始める。
そして丁度眠さも限界になってきた頃、ふかふかの布団に彼と一緒に寝転ぶ。
意識が飛んでしまう前に彼と目を合わせると、彼は優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でる。
彼のおやすみを合図に私は深い眠りに落ちた。



2018.10.04




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