0708 0025
こぽこぽと香りのいい紅茶を淹れつつ、先ほどから僕の口元は緩みっぱなしだ。
ちらりと視線を前に向ければ、エクトプラズムがことなさげに中庭を眺めている。
今の彼には、本来あるべき場所にあるものがない。
脚、である。
彼は数年前にヴィランと対峙し、そして膝から下を両方とも持っていかれた。
ゆえに彼は僕の作った義足を用いて、日常生活やヒーロー活動を続けている。
元々足技を得意としていた彼にとって、脚は何よりの武器であったに違ない。
それを失うということは、牙をもがれた獣同様。彼の脚を切ったヴィランもそう考えたのかもしれない。
「今日はアッサムだよ。どうぞ」
「ウム…」
カップを渡しながら再度彼の下半身に視線を落とす。
両足の義足を外した今の彼の戦力は、おそらく半分以下。
いま、彼に無体を働いたら一体どんな結末になるだろう。
冷静沈着、不屈の精神で逆境から立ち上がったヒーローの彼は、どんな表情を見せてくれるのだろうか。
「オ前ハ…」
「ん?」
「随分ト、ギラギラシタ目デ、我ヲ見ルノダナ」
「……」
これまた気にする風もなく言葉を投げてきたエクトプラズムは、中庭を見つめたまま紅茶を喉に通す。
僕はといえば、そんなに顔に出ていたつもりは全くなかったので、精一杯の笑みを顔に貼り付ける事しかできなかった。
バレてる。気を付けなければ。
(自分の前で無防備な姿をさらすエクトプラズムを虎視眈々と狙ってる偽善者)