お仕度


なまえと過ごす日々はゆるやかに過ぎていった。

初めの一日こそなまえの体調を気にして家でゆっくりしていたが、
今日は朝から外に行こう!となまえが聞かなかった。

オレはまだなまえの心配をしていたから少し戸惑ったが
結局彼女の押しに負けてしまい、じゃあ仕度をしよう、と
背伸びして髪を結い直した。

男の仕度なんて10分もいらない。
最低限のものさえあれば外に出られる。
だからなまえの用意が終わるまで
どこにいこうか考えるため、
前に買っておいた雑誌がないか探していた。

ラックからとりあげてページをめくってみるが、
なまえはどこへ行きたいのだろう。

「なまえ、どこに行ってみたいんだ?」

寝室に向かって声をかける。
二秒ほどたっても、自分の声以外聞こえなかったから
再度雑誌に目を落とした。
オレはこれといって用事は思いつかなかったが
あ、電気代払いにいきたいな、と野暮用をメモした。
もちろん、行ければの話だが。

なまえの情けない声が寝室の向こうから聞こえた。

「シュート…」

困った様な、戸惑った様な。
うわずった声にくすりと笑い、寝室のドア前まで行った。

「…どうした。」

「あのね…、背中に、手が届かなくって…」

「…ああ、入っても平気か?」

少し緊張した。
いいよ、と許しが出たので入ると、
ああやっぱり、困った顔してなまえはこっちを見ていた。
でも化粧も髪の毛もさっきとはまるで違っていて
いつもの自然なままも好きだが、とっても美人さんで
オレはいつも以上に照れてしまった。

「背中のね、ジッパーあげてくれる…?」

「ああ…。」

それだけのことじゃないか、と思いつつ、
彼女の背中側に向かう。可愛らしいワンピース。

下にはキャミソールを着ているようで
下着は見えなくて助かったが
ほっそりした首元が見えていて心臓に悪かった。
ジッパーをあげるのが永遠に感じた。
ゆっくりと両側の布地がくっついていって、
彼女の肌が見えなくなることが惜しかった。
ジッパーを上に上げる頃には、
オレよりも小さな背中に素直に欲情してしまった。

後ろから首に抱きついて、口づけた。
くすぐったそうななまえが可愛かった。

「シュート…!おでかけだよ!」

「ん…、わかってる。」

「ぎゅってされたら動けないよー。」

「そうだな…。でも、」

なまえの心臓が早く脈打った。
オレと同じだ。

「いつも可愛いけど…、今、特別可愛い。」

こんなこと言えるのはなまえにだけだ。


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