ゆめみるばすたいむ

この生活も1ヶ月が過ぎようとしていた。
オレと言えばなまえと一緒に居られる時間に甘えて
心の全てを許し始めていた。
どんな小さなことでも共有したくて、
偶然できた洗剤のシャボンや、
変に絡まった髪を見せては
なまえに少し困った笑顔を
浮かばせてしまっていた。

つまり、オレは少し、
ワガママになっていった。


「嫌だ。」

「…これじゃ
いつまでたっても行けないよ…!」

頑として彼女の肩を抱く腕を離さなかった。
オレに後ろから抱きかかえられて
動けなくなっている彼女を更に抱きしめた。
今上がっている彼女の言い訳はこうだ。
恥ずかしい。今までと同じでいい。
すぐに出るから。恥ずかしい。
はじめはオレも言い出し、恥ずかしくなったので
やめようとは思ったがこうも頑なに断られると
頭の中の悪い部分が
意地でも引き下がりたくなくなっていた。

オレは指先でなまえの浮き上がった鎖骨をなぞった。



「オレは別になまえが風呂に行けなくて困らない。」

「え、じゃあ一生行けないよ。」

「そうだな。」

「私やだよ!臭くて死ぬのやだよ!」

「なまえは臭くならない」

「なるよ!
あーあ、シュートのせいで臭くて死ぬ。」

「…ならない。」


なまえの深いため息が聞こえて
こっそり勝った、と思った。



「もう…。絶対こっち見ない?」

「見る…」

「なに?」

「見ない…」

大人気はなかったがこうしオレは粘り勝ちした。










そういえば家の中だから感じてはいなかったが、
今日は気温が低かった。

目にタオルを巻かれて更に
腰にタオルを巻いただけのオレに
風呂場はだいぶ寒かった。


「…なまえ、どうでもいいんだが…
オレは…今、それなりに面白い格好になってないか…。」

「な、なってない、なってないよっ…」

ずっと笑われ、気を紛らわせてはいたが
耳だけで衣擦れの音や
すぐそばで聞こえるなまえの声が
こんなそそるとは思っていなかった。
自分から強引に誘ったものの後悔していた。


「では!今からお風呂ツアーにむかいまーす!」

「あんな嫌がってたくせに…」

「見えてないと思ったらね、俄然どうでもよくなった!」

「…そうか…」

急に手を引かれて風呂場に足を踏み入れた。
素足の裏に冷たい濡れたタイルの感覚が
なぞるように伝わっておどろいた。
ここに座って、とバスチェアに座らされる。
自分の家の物なのに未知の感覚だった。


毎日、この湯気に包まれているはずなのに
なまえがいるだけで匂いもまるで違った。
いや、そう思っているだけで何も変わりないのかもしれない。
見えないながらも気配を探ってなまえの手を引いた。
ここ最近、何度もこの手を手繰り寄せた。
湯で温まり濡れたなまえの手をしばらく触れて
こぼれるように好きだと呟いた。
どんな風に聞こえていたって構わないから
オレはただこの気持ちを押し付けてしまいたくてしかたなかった。
そんなだから、オレはいつも夢の中でしか
本当のことを言えないのだろう。


「シュート」

なまえはオレの名前を呟いて、倒れ込んだ。

とっさにタオルをとったオレは
しっかり服を着込んでいたなまえの姿を見て
うそつき、と彼女に囁いた。




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