公園


二週間がすぎると、少しは風景が変わっていった。
周りを見る余裕がでてきたというか、
なまえ以外見えない、なんてことは少なくなっていった。

近くに公園ができたから行ってみようよとなまえは言う。

公園なんて久しく行っていないし、昼食後の散歩にもいいかもしれない。
オレはなまえに二つ返事で了承した。

「家の目と鼻の先です。じゃーん!」

「天気が良いから何かするか?」

「ふふ、そう思ってフリスビー持ってきました!」

「フリスビー…」

犬が…拾ってくる…アレか?
オレが困惑しているとなまえは犬だけじゃないよ!
人間だってこれで遊べるんだから。
とテレビで見た風景について必死で話すから
なんだかおかしくてオレは笑っていた。

なまえがオレに円盤を渡して
3mほど離れた。
オレはどんなもんかと試しに腕を振り上げれば
円盤は高く空に舞い上がる。
なまえは駆け寄りながらジャンプして円盤を綺麗にキャッチする。
なるほど、中々難しそうだ。

今度はなまえがこちらに投げようとするが、
思った以上に空高く宙へ浮かんだので、
オレの左手達を飛ばしてキャッチさせた。

「もー!シュートずるいずるい!」

「ハハ、まあいいだろう。」

何度か飛ばしているうちに、なまえが取り損ねて
茂みの中へ円盤を転がしてしまった。
という声を出しながら茂みに入っていき、
しばらくするとなまえがオレを呼んだ。

「どうした」

「あのね、これ、見て!」

茂みの奥にいたのは白い猫だった。
大人しいものでこちらをじっと見つめては
合成音声の様なぎこちない声でにゃーと鳴いた。

「可愛いな…だが、こんなところにいたのか…」

「うん、私もびっくり…全然気がつかなかった!」

猫を抱き上げて、首もとに顔を埋めるなまえに
野良猫だから、と声をかけようと思ったが
それが杞憂だったことを思い直してやめた。
猫は何をされているのか分からない様子で
目をきょろきょろさせている。

オレは自分の知っている猫と違いがあるのか
好奇心からその小さな体を撫でると、
猫はオレの指を舐めた。

「わ、いいな!」

「…舐められるのは羨ましがることか…?」

「うらやましいよかわいいもん。」

さっきから、猫に可愛いしか言ってないな。
少し目の前の猫の額を人差し指で押して
意地悪した。
猫は嫌そうに顔をしかめつつ、そっぽを向いた。

「…この子、飼っちゃダメ…?」

「なっ……」

「ダメ?!」

「……いや……ダメ、とは……」

言えない。けど、言いたくない。

なまえは立ち上がって迫ってくるから
猫もびっくりして手足をふるわせていた。
オレは無意識に口元がひくついて、
空を眺めながら言い訳を考えた。

世話が大変だ、無計画すぎる、病気や怪我をしたらどうする…

あげればきっときりがないくらい理由は思いついたが
一緒に暮らす前にオレは自分でなまえにはなるべく本心で接する、と決めていた。
きっとこの先なまえ以外で、自身の気持ちを
素直に打ち明けられる人間なんて出会えないと思ったから。
恥ずかしい。けれど、なまえに向き直って
オレは子猫を撫でた。

「飼ったら…なまえはオレより猫を優先するだろう…?」

「えっ」

「だから…嫌だ…。」

オレはなまえの顔が見られなくて、
子どもっぽい理由を押し付けるように言い放った。
なまえはしばらく黙った後、しゃがんで猫を降ろした。
猫は元気にまた茂みに戻っていった。
なまえはオレの手をとって、帰ろう、と言った。
その言葉でようやく彼女の顔が見られるようになったオレは驚いた。
なまえの顔は耳まで真っ赤になるくらい照れて笑っていた。


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