愛しきワタバナの子よ

ふれあい


まえもくじつづき




「コトは全然しゃべらないね」
 
クレオは幼子の心を思い、痛く笑う。
グレミオはそんなクレオに優しく声を掛ける。
 
「坊ちゃんとはお話しするんですよ。おー、とか、うー、とか」
「そうなのか、それならいいんだ」
「坊ちゃんもコトちゃんが気に入って仕方がないみたいです」
「まあ、年下が居ないからな、構える相手がうれしいんだろう」
 
グレミオが用意した積み木の崩れる音が響いた。
いつものシチューが煮える音と重なると、幸せの音楽のように聞こえる。
子供達の嬌声はコーラスだ。
 
「なあなあグレミオ、クレオ!」
 
台所に顔をのぞかせるティルの顔の、なんと鮮やかなことか。
 
「パーンは帰ってこなくていいからさ、そのかわりコトがずっと一緒にいてくれないかな」
 
「パーンさんだってお仕事頑張ってくれてるんですよ、泣いちゃいますよ」
「そうだな、そんなことを言うとパーンは泣いて泣いて、ティル様の大事なコトまで食べちゃうかもしれませんね」
 
「ええ!? それは困る、どうしよう……」
 
クレオとグレミオは笑い、からかわれていると知ったティルはコトを連れてそこから逃げるように階段をのぼっていった。
台所に残された二人も、ティルとコトの二人を見れば、兄弟になることが出来ればいいのにと思わずには居られなかった。
しかしそんな願いは叶うはずもない。いつかコトは居なくなると、誰もが理解していた。
 
引き取り手が見つかったと、パーンを除く全員が揃った夕食の場でテオが口に出したとき、ティルの表情は気付くまでもなく硬直していた。
 
「どこへコトを?」
「ハイランドだ」
 
クレオもグレミオも声を上げて驚いた。都市同盟の地を抜けた先にあるハイランドは、ここからなんと遠いことか。ティルも二人の反応から、コトの向かう場所が遠いことを理解した。
 
「信頼できる方がそこにいてな。なによりも今争いもなく、心配のない場所はそこだけだ」
「ここだって、安心だよ!」
 
ティルは声を大きく上げ、テーブルを力強く叩いた。その行動にコトは体を震わせてティルを見上げる。
ティルはその視線に気付き、コトを抱きしめた。
 
「内乱だって、父さん達が鎮圧するし、何があっても、僕がコトを守る!」
「坊ちゃんだってまだまだお若いし、何が起こるかわからない世の中です。何よりテオ様はコトちゃんのことをかんがえて」
「僕が守るったら守るんだ!」
 
ティルは食事もそのままにコトを抱いたまま階段を駆け上り自室の扉の音を乱暴に響かせた。
その音を聞き終わり、残った三人の間には妙な沈黙が流れていく。
グレミオは必要なくなった食器を下げ始め、
残った二人は席に着き、静かに食事を始めた。
 
「あんな風に育つとは思ってなかったな」
 
ぽつりと落とされた言葉に、クレオはくすりと笑った。
 
「頼もしく育たれましたね」
「そうだろうか。まだまだだと私は思うがね……」
 
クレオの言葉にまんざらでもないテオの表情を見つめながら、クレオは本題に話を戻した。
 
「コト、どうするおつもりですか」
「息子には悪いが、今夜にでも連れてでよう。都市同盟が静かな今を逃すわけにはいくまい」
「では、寝静まった頃に手配しましょう。私も参りましょうか」
「いや……敵地で必要以上に警戒させたくない。一人で行こう……つもる話もある」
「わかりました。そのようにグレミオにも伝えておきましょう」
「よろしく頼む」
 


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