舞い上がれ、鳩よ、鳩よ、鳩よ!

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まえもくじ|おわり




ルードの深い森の側にこしらえられた邸宅は、庭にたくさんの花を咲かせ、季節の喜びに輝いていた。
考えてもみなかった状況に身を横たえている自分が愚かしい。
庭先で、ガーデンチェアにくつろぎながら、俺は庭で戯れる姿を目を細めて見やる。
白い狼と、白いリオウ。日の光に体を溶かしながら、二人は遊んでいる。
 
「貴様ら、良く飽きもせず毎日じゃれあえるな」
 
俺のあきれた声に、リオウは笑って答える。
 
「ルカもこっちに来たらいいのに」
 
やっとあいつは、俺の問いに答えるようになったな。言葉を投げれば、返ってくる反応が嬉しい。
俺は最初、お前にいらだちを抱いていた。
 
友の代わりに自分が犠牲になるなど、聞いてあきれる。
自分の代わりに兵士を助けるなど、とんだ笑いぐさだ。
死へ向かう軍将をかばい立てする。お前は弱いものに優しい。
俺は弱くなど無かった。だからお前は俺を憎んだのだろう。
俺を殺せる機会をうかがうために、俺の側にいる、心が跳ねる。
お前は俺を憎む限り、側にいるのだと心地よさを感じていた。
 
なのにお前は遠く離れてしまった。
俺は民を助ける口実で、全てを憎み、戦争をしかけた。しかしなぜだろう。
お前に対してのみすべての憎しみを向け、お前の側にありたいと願った。
 
お前は俺をもう憎まないのに、側にいてくれると言ったのは何故だ?
俺はお前を一生憎み続けるだろう。俺のために、お前はそこにいてくれるのか。
 
「ルカ、勝手に獣の紋章を継承したこと、皇女様達に言わなくて良いの?」
「かまわん。壊したと言っている。深い詮索はしないだろう。俺が言っているのだからな」
 
納得した様子のリオウの右手に狼が吸い込まれ、一人になったリオウが俺の元へ寄ってくる。
 
「それでも、言っておいた方が良いと思うよ。みんな、心配してると思う。ルカがおかしくなっちゃったって」
「お前が俺の紋章の眷属になったと? 言ったところで信じんぞ。変人には変わらんだろう」
 
リオウが笑う。それでいい。いつでも殺せる場所に居ろ。
俺が死ぬとき、お前も死ね。お前が死なない限り、俺も死ぬことはない。
 
まるでかごの中の鳥だな、と眉をひそめて笑うと、リオウは俺の考えていることに気がついたのか、口を動かす。
 
「ぼくの鳩は、自由に大空を飛んでるよ」
 
お前の鳥が自由に飛んでいるというのなら、俺の鳥も飛んでいるのかもしれない。共に、青く深い大空を。
 
この果てしない百万世界に、舞い上がれ、鳩よ、鳩よ、鳩よ!
 



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