舞い上がれ、鳩よ、鳩よ、鳩よ!

24


まえもくじつづき




リオウの紋章の光が、ゆっくりとその輝きを無くしていった。僕の体中の痛みや倦怠感は消え失せ、それは周りの兵士、同盟も王国もなく、全員が身体の疲れを癒されたようだった。
僕は目の前で、ルカとリオウが抱きしめ合っているのを見つめた。リオウ、君はなんて強い人間なのだろう。その体と心で僕を救い、今もまた、ルカ・ブライトを助けようとしている。
君は自分の枝を人に分け与えてばかりだ。自分で折ってしまう僕とは違う。
不思議な光景だ。ルカ・ブライトがまるで庇護を必要とする子供に見える。
 
ふたりの元へ行こうと思った。今なら、話し合いで全てが解決する、そんな気がして。
とたん、右手に熱を感じた。黒き刃の紋章を宿したときの感覚と似ている。
僕ははじかれるようにリオウを見た。
ルカの髪を撫でていた腕は力を無くし宙に揺れ、頭を支える力も抜け、まるで首の据わらない赤ん坊のようだ。
君は紋章による負担に耐えきれずに? 頭をよぎる最悪の結末に心臓が止まりそうになる。
それはまた腕にあふれる熱で引き戻される。右手の紋章が、形を変えていく。
本来ある形に収まっていく。僕は膝の力を無くし、地面に突っ伏して泣きわめいた。
 
いらない、こんな紋章はいらない! 僕の大切な友達の元に戻ってくれ!
右手を地面にたたきつけ、血を流しても、必要のないものは手元から離れてはくれなかった。
 
僕の脇をルカ・ブライトは通り過ぎていく。
お前は泣かないのか? 泣いているのか? お前を一人心配していた、お前に傷つけられ続けた骸を抱きしめながら!
 
青いマントがどす黒い色に変わっている、その背中を見つめる。威風堂々と、地面に足をしっかりと降ろし、歩いている。ナナミが駆け寄り、リオウの姿に動きを止めた。ゆっくりと側に近寄り、リオウに声をかけ続ける。
ルカ・ブライトはナナミの好きにさせていた。
 
ようやっと理解したナナミが、悲鳴を上げて泣き崩れる。ルカ・ブライトは再び歩き始めた。
それは騒がしさにまみれていながら、実に静かな流れだった。
王国兵も、同盟軍兵士も、皆が道を空け、花道のようになった山道を男とリオウは歩いていく。
 
裂傷にまみれている体。リオウの真っ白な服、真っ白な腕。
どうしてリオウは僕達の用意した赤い服を着ていないんだろう。
君は、決めていたということなんだろうか。この結末を、君の可能性を。
 
森から姿を現した大きな獣に兵士達はどよめきたつ。白い狼は、静かに、ルカ・ブライトの後ろを付いていく。
真っ白な、二つ並んだだけの列。
その姿が見えなくなるまで全員が何も言わずに見送った。
通り過ぎた後は、何も言わないまま、お互いに撤収の用意をしていく。
 
リオウ、君は最後に、戦わずして一つにまとめたのだろう。この国の全てを。
僕は目を閉じた。どこまでも広い晴天の草原に、テーブルが一つ置かれている。その上には鳥かご。
側には君が居る……
リオウが鳥かごの鍵を開いていく。かごいっぱいに詰められた鳩が、一斉に青空高く舞い上がる。
 
舞い上がれ、鳩、鳩、鳩よ、自分の選ぶ枝を摘み取るために!


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