鎧戸を閉めて外は見えるか

15


まえもくじつづき




ぼくはソロン・ジーの一件から、何度かルカの命令を拒否した。
 
ひとつめ、自室待機。こっそりと抜け出して、兵舎で紋章を使う。
腕の傷が開いた。
 
ふたつめ、遠征訓練に立ち寄ったサジャの村でルカから離れる。流行病に苦しんでいる人を助けた。
身体に痣がよみがえった。
 
みっつめは、何になるだろうか。
この監禁状態が終わったら、ではあるだろうけれど。
 
ベッドの上で、天蓋に施された刺繍の目を数えるともなしに見つめる。
これ以上身体に怪我が戻ってくると、いくら隠そうにも隠しきれない。
その点では、今の状態はありがたかった。
 
控えめに扉が叩かれ、皇女様が顔をのぞかせる。
ぼくはベッドから起き上がって歓迎した。
 
「お茶をお持ちしたんです。一緒にいただこうと思って」
 
皇女様に続いて侍女が給仕台にティーセットを乗せて運んでくる。
備え付けのテーブルに慣れた手つきで配置すると、侍女は恭しく出て行った。
 
ほんのりと暖かなスコーンをちぎり、マーマレードを塗りつける。
それを口に含み、さわやかな甘みを楽しんだ後、ぬるめのミルクティを飲み込んだ。
ミルクティの中に入っているらしい蜂蜜が、口の中の鉄分を錯覚させて緊張が走る。
大丈夫、口の中のどこも切れてない。
 
「リオウ、兄を嫌わないであげてね」
 
声を落ち着かせてつぶやくような皇女様の言葉に、口の内側を思わず噛みそうになる。
せっかく傷もないのに、作ってしまうところだ。ぼくは息を吐いた。
 
「どうしてですか」
「どうしてって、こうして謹慎させられて」
「ぼくが悪いんです。命令を聞かなかったから」
「でもリオウは、兄を憎んでいるのでしょう? ソロンから聞きました。あなたがユニコーン隊にいたこと……辛くも生き延びて……汚名を着せられていたのね、あの引き回しは……」
 
皇女様には、キャロでの市中引き回しを見られていたんだっけ、なんだか遠い昔のように感じる。
 
「はい。ユニコーン隊を壊滅させたという汚名を着せられました。なのにぼくはここで良くしてもらっている。変な感じがしますね」
「ごめんなさい、謝っても謝りきれないのはわかっています、けれど……」
「皇女様が謝ることじゃありません。気にしないでください」
 
ぼくは紅茶を一気にあおる。まるで血のようなその感覚を飲み下して、ぼくはうつむいた。
 
「リオウ、兄は不器用なだけなんです。どうか、話をしてみてはくださいませんか。そうすれば、きっと何かが見えてくると思うんです」
「それだけは、ごめんなさい、出来そうもありません」
「怖い、から、なの?」
「いえ、ただもう、話したくない、それだけです」
 
ぼくがルカの命令には向かう理由、それは
そばにいたくないから、声を聞きたくないから。
従いたく、ないから。


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