胎動せよ、変容せよ

12


まえもくじつづき




学術都市、グリンヒルの兵力は低いため、先にトゥーリバーを落とす。
軍事会議の中、クラウスという軍師が淡々と、しかし自信満々に兵法を説いていく。
休戦条約を交わすという名目で近づき、奇襲を掛けるのだという。
 
なんだか滑稽だった。自分に害をなさない者に刃をあててなんの利があろうか。
征服し、利潤を奪うのが目的としても、それに何の興味も持たない人間には、変なものにしか思えない。
逆に反感を買い、不必要に血が流れる。また流される。
くりかえし、くりかえし。
繰り返さないために制覇する? そうしてまた流れていく?
 
何時間と続く話し合いの中で、
トゥーリバーにはキバ将軍、クラウス軍師が指揮を執り、行われることになった。
 
ルカも見てみれば会議は退屈だったようで、決まれば我先にと部屋を出て行く。
ぼくも慌ててその後を追った。
 
「何時間も堂々巡りのような話は非効率だ」
 
思わず頷いてしまう。同じような内容をああでもない、こうでもない。結局は一番最初の意見に決まってしまうのに。討論の好きな人間は、小さなところから話をすくい上げては戻しを繰り返す。
背中越しにルカがこちらを伺う。
その視線に気が付きながら、それに気付かないふりをした。
 
ルカは立ち止まり、扉を開ける。
入って良いのかわからず、ぼくは立ち尽くす。それに気付いたルカが入れ、と怒鳴る。
慌てて入りゆっくりと扉を閉めると、扉のそばに立って広い室内を見回した。
目の前には黒塗りの大きな机と黒い布張りの椅子。ソファや本棚もあり、
アナベルさんの執務室に似ていた。ここはルカの執務室なんだろうか。
 
「仮眠をとる。見張れ」
 
何を言っているのかわからなかった。
頭が理解する前に、ルカは部屋の中央に用意されたソファに身体を横たえた。
 
「お前、名前を名乗ってみろ」
 
ルカの問いかけは、紛れもなくぼくに対してのものだろう。扉の外に気配もなく、部屋にはふたり以外誰もいない。ぼくは黙っていた。ラウド隊長や皇女様から聞いて知っているはずなんだ。
 
「答えないのか。まあいい」
 
ルカの落ち着いた声を最後に、寝息がゆっくりと部屋に伝わっていく。
本当に眠ったんだろうか、配属されて日も浅いぼくの目の前で?
 
ゆっくりと、物音に注意して近寄ってみる。
手を伸ばせば硬い髪の毛に触れられるほどに。寝息は規則正しく、本当に眠っているようだ。
ぼくはもう少し近づいて、髪の毛に触れてみて、すぐに手を引っ込めた。寝息は続く。ほっと息をついた。
なんだか、どう猛な犬にさわってくる子供の頃の度胸試しを思い出して笑みがこぼれそうになる。
ぼくはゆっくりと離れ、遠くから眠る様子を見ることにした。
この状態なら、ぼくでもルカを……
 
飾り物の大きな花瓶を頭に落とすか、その首を絞めるか。
鎧は未だ身につけているので、ナイフはうまく使えそうにない。
 
どれだけ考えていたんだろうか、こちらに向かってくる足音にも気付かず、ノックの音で身が縮こまる。
するとルカは今まで眠っていたそぶりも見せず、起き上がった。
文官と思われる人物が奥の机の上に書類を置くと、一礼をして去っていく。
ルカはそれにため息をついて、椅子に落ち着き筆をとる。
今までしっかり眠れていたんだろうか、それとも、ぼくを試していたんだろうか。
疑問は湧くが、恐ろしくて聞けそうにもない。いや、聞くことは出来なかった。


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