百万世界、一の意志

08


まえもくじつづき





明かりもない底をつきかけた食料庫にぼくは放り込まれた。
それも、殴り続けられた後の拍子に。偶然なのか、故意になのかはわからない。
背中に土がこすれ、うっすらと熱を持つ。
闇の中でさえその輪郭を強く持つルカは、今は装備を外してくつろげる格好になっている。
今ならば一矢報いることが出来るか、一瞬よぎった考えは、威圧感と圧倒的な暴力でねじ伏せられてしまっていた。
 
腹を蹴られた。胃が驚いて一度跳ね、痺れるようにけいれんした。熱い。
喉がひくつき、吐き出しそうになる。
腹を押さえるように身を縮めた。防御に回した腕を金属質の靴がえぐっていく。熱い。
 
「友の代わりに失敗を謝りに来たのか? 反吐が出る」
 
ぼくは何も応えない。ぐるぐるする頭の、胃の、中身を落ち着けるのに必至だから。
 
「ガキの考えか? 戻れば殺される、わかりきったことだろう!」
 
肩を踏まれる。横倒しだった身体は、踏まれた行為によって仰向けにされる。
いけない、急所ががら空きになるのに。
身体が熱い、痛みに痺れて、何も考えられなくなってくる。
ルカが闇の中からぼくを伺っている。
 
「どうした、反撃も出来ないなら命乞いをしてみろ! 助けてくださいと口からな!」
 
頬に靴裏が張り付き、滑るように口をふさいだ。
意味が無いじゃないか。これじゃ声なんて出せない。声を出す気は全くないけれど。
 
「このまま押し込めば、お前の小さな顔などつぶれてしまうだろうな?」
 
ゆっくりと力を込めていく。柔らかな口元が沈み、内側の肉が自分の前歯で切れた。
ぼくは何も言わない。絶対に声を出さない。
ぼくの可能性のために。
 
「……つまらんな」
 
ルカは顔から足をのけ、思い切り横腹を蹴ってくる。転がった身体は、木箱にぶつかり、止まった。
自分の息づかいだけが大きく聞こえ、痛みなんてどうでも良くなっていた。
 
「貴様は輝く盾の紋章の持ち主ではないのか。もし持っているというのなら、自分の身体を治してみろ。生かしてやるぞ」
 
ぼくは何もしゃべらない。
ルカは舌打ちしてもう一度つまらないというと、ぼくに興味を無くして背を向けた。
 
「ただのガキが代わりに来たか、しかも何の反応もせん人形か。とんだ大損だ」
 
ぼくはここで死を迎えるんだろうか。
それでもいい。かすんでいく目の前の闇は闇なのかすらわからなくなっていく。


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