百万世界、一の意志
07
どうしてぼくは走っているんだろう。
闇の中、人々の逃げ惑う声と足音、不作法に足を踏み入れてくる兵士達のざわめき。
その間をぼくは走る。どんな声も出さず、ただ息だけを弾ませて。
逃げ出せばいい、僕が王国軍の駐屯地に戻る必要はないのに。
なのに足は動き続けている。逃げている。
「裏切り者の子供」
草を踏み、砂利を滑らせてぼくは闇雲に走る。頭に響き続ける言葉から逃げる。
ミューズ市から北に離れた場所に、キャンプはあった。
まったりと落ち着いた松明の火が、闇の中で待ち構えていたように、拒否するように。
ぼくは入り口で足を止め、呼吸を整えた。苦しさからか目に涙がにじむ。
さて、これからどうすればいいのだろう。
声を出す? 何のために?
ラウド隊長をお願いします?
任務は失敗しました?
だめだ声は出せない。どこかに身を寄せてほとぼりが冷めるまでじっとしていよう。
洞穴で暮らすのも悪くはない。
そう考えて、きびすを返そうとしたとき、誰かに頭を捕まれる。
戸惑いの無い力、固い鉱物のような指先。
「貴様、我が駐屯地に何の用だ」
つかみあげたその頭を、声のするほうに向けられる。こめかみに食い込む容赦ない痛みに顔がゆがんだ。
その痛みに閉じかけた視線がぶつかる。
大きな狼のような威圧感を放ち、ぼくの、ジョウイの、皇女様の気に掛けるその人は、ルカ・ブライト。