枝手折るのは

06






ミューズ市の外れ、少し歩いた小さな木の密集地帯にそれはあった。
木の葉と枯れ木で隠された馬車には、レオナさんと一緒にナナミとピリカが乗っていた。
 
「あ、ジョウイ! 無事で良かった! ねえ、リオウは!? リオウはどうしたの!?」
 
顔を輝かせるナナミに、僕はかける言葉がなかった。
押し黙る僕に、ナナミはなおも続ける。明るくはねる声が、闇の中でさえ鮮やかに。
 
「リオウと一緒にアナベルさんのところに向かうはずだったの。でもリオウがピリカちゃんのそばにいてあげてって……そうしたら王国兵はやってくるし、本当にびっくりしたんだから!」
 
僕はそれを聞いてますます言葉が出なくなってしまう。
リオウはすべてを見越して行動に出たことを知ったから。
少しの間を置いて、話を聞いていたであろうアナベルさんが口を挟んでくる。
 
「まずはサウスウィンドウに向かおう。そこですべてを話す。良いな、ジョウイ」
「……はい」
「ジェス、お前もだ。早まった考えを口に出すな」
「……申し訳ありません、アナベル様」
 
馬車はジェスさんの手綱さばきでゆっくりと動き出した。
 
僕は自分で枝を折っていたのだろうか。
自己犠牲という自己満足でしかない甘美酒によって。
そしてなんということだろう、無くなった枝を直してくれたのは、枝を折ることになった理由だ。
 
リオウ、無事でいてくれ。
どうか、君の折れた枝の添え木を、僕にさせてくれ。
 
膝に眠るピリカの手のひらが僕の人差し指を掴んだ。
きらびやかな朝日がじんわりと山を染め始める。
その輝きに涙を流しながら、ようやく僕も瞳をとじた。


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