新しい豊和の世界へ
一生のお願い
カレッカは、やはりどこも変わった様子はなかった。
やせた土地、あれてすすけた民家の群れ。
違っていたのは、酒場の男がいなくなってしまったことと、ティルが表情を鮮やかに、一人の少年を連れてきたことだ。
ティルは一番はじめにこの村の土を復活させようと頑張っている農夫のブラックマンにその少年を紹介した。
「どうぞ、よろしく」
「はい、あの、はじめまして、リオウです。村の復興に尽力してくださってるそうで、とても嬉しく思います」
リオウは外交になれているのか、立派な受け答えでブラックマンの目を白黒させる。
その様子にティルは笑うと、リオウを連れてブラックマンに別れを告げた。
「ここが、カレッカ、ぼくの故郷」
「そう。政治目的で死滅させられた、悲しい村だ」
リオウとティルは、村を一望できる丘の上で、その灰色の景色を眺めていた。
外気は冷たく、死の村と言われても仕方がない。
綿花の栽培地であったと言われても、誰も信じないだろう。
「リオウ、僕のお願い、聞いてくれるね」
風に吹かれて物思いにふけるリオウの手に、ティルは封筒を手渡した。
「これはこの村の権利書。レパントから譲ってもらったんだ」
「どうして」
「君とずっと一緒にいたいんだ。それには、安定した住む場所が必要だろ?」
したり顔で笑いかけるティルに、リオウの表情は冷風にさらされているのが理由にならないほどに赤く染まる。
「復興、させるってことですか」
「そうだよ。たくさん時間のある僕らなら、出来ないことはないだろう」
リオウは封筒で顔を隠しながら頷き続ける。
「ねえ、僕のお願い、聞いてもらえるかな。一生のお願いなんだ」
「喜んで……ぼくのほうからこそ、お願いしたいくらい……」
ティルはリオウを抱きしめた。書類がしわくちゃになっても、かまいはしなかった。