悲しみだけを携えよう

ぼくののぞみ


まえもくじつづき




すべてが終われば、君は僕たちの関係が元に戻ると思っていたね。
ずうっと前から、それは無理な願いだったんだ。
ジョウイは目の前にいるかつての親友にまぶしさを感じ、目を細めた。
 
君たち兄弟の仲の良さに、僕は嫉妬していたよ。
ナナミのまっすぐさ、それを許容するリオウ。
僕たちも仲が良かった。でも、疎外感を感じずには居られなかった。
どうしてリオウは僕を求めてくれないんだろう。
敵対しても、まっすぐなリオウ。
ルカ・ブライトが君に殺されるように仕向けたのは僕なのに、君は僕を許す。
どこまでも許し続けてくれるけれど、僕がほしいのはそれじゃない。
 
ナナミが僕たちをかばって矢にうたれた。
リオウ、君は自分の場所を奪われて、はじめて瞳に暗闇を宿した。
輝く君が汚れる。ナナミのせいで汚れる。脂ののったあの男に汚される。
君が悲しむのは、僕のためだけで良いんだよ。
 
なのに、よくも、僕以外のものに悲しませてくれたな、ゴルドー。
 
「よくもナナミを殺してくれたな!」
 
リオウはジョウイの声に正気を取り戻したのか、共にゴルドーに立ち向かう。
だめだよリオウ、君が感情を宿すのは僕に対してだけで良いんだ。
ゴルドーの汚い何かを、君の身体につけたくない。
 
騎士団長の持つ土の紋章が城上部を激しく揺るがし、足場を不安定にしてくる。
崩れたがれきが襲いかかってくるのを利用して、ジョウイはリオウのえりあしに衝撃を与えた。
意識を無くして倒れ込むリオウに、ゴルドーの口の端がゆがむ。
 
「そ、そうか、手を組もうじゃないか、皇王殿」
 
ゴルドーの言葉に、ジョウイも顔をゆがませて笑った。
 
「手を組む? なんのことです?」
「同盟軍のリオウを倒し、我らの地位を盤石なるものにする……そのために皇王殿はリオウを手に掛けたのでは」
「ちがいます。私はただ、あなたでリオウを汚したくなかったからです」
 
ジョウイの言葉に、ゴルドーは顔をしかめ、卑下た笑みをこだまさせた。
 
「はは、はっはっは、皇王殿はリオウにそういった感情をお持ちでありましたか! ならばその者をとらえて、あなたのものにいたしましょうぞ」
「汚らしい。虫酸が走る。私が求めているのは、そんな一方的なものではないのです」
 
ジョウイは右手を掲げ、黒き刃の紋章を浮かび上がらせる。
 
「我に同調せし深き欲望よ、黒き無数の友となり、彼のものを串刺し、永久に滅せよ!」
 
対処する暇もなく異空間から放たれたあまたもの黒い刃がゴルドーを貫き、彼の居た証拠は黒焦げた肉体と、かろうじて残った衣服、そしてエンブレムだけとなった。
 
残ったそれに侮蔑の表情を向けると、ジョウイは倒れたリオウを優しく揺り起こし、
ナナミの身体を気遣うと、ロックアックス城から手を引いた。
 
そうすれば、君は僕が未だに優しい昔の僕だと認識するだろう。
胸の内の獣を飼い慣らしているのが本当の僕だと思わないだろう。
僕のことだけ考えて。君から僕のところへやってきて。
それが僕の望むもの。


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