あるというならば
どちらが素直?
紋章のせいだと思わなければ、頭が沸騰するからだ。
会って間もない少年に心を揺さぶられ、心臓を鷲づかみにされるなんて。
どうして思いを寄せてくれるカスミのような女の子ではなくて彼なのだろう。
同じ境遇だから? 同族意識が強いからだろうか。
ちがう。ちがう、ちがう。
紋章でもない、同族意識でもない、自身の思うがままにリオウに好意を寄せている。
そこに理由なんてあるわけがないのだ。
故に紋章に支配された理由をもって感情を受け入れているであろうリオウが悲しい。
ティルは、リオウの言葉が真実ではないと思い、それに嘆いた。
コトを失ったとわかったときと似た、一種の絶望がティルの中を駆け巡っていく。
ふと、お互いの手のひらが離れていることに気がつく。
右手の意志持つ紋章は満足しているのか、静かにそこにある。
背中に暖かさを感じる。
うなだれた自分の背中に、リオウが触れているのだろう。
あやされている感覚に不快はない。
いつか思ったその薄い身体に手を伸ばし、思い切りすがりつきたかった。
なのに好意という感情の入れ違いにティルは躊躇し、両手はシーツを握りしめるにとどまった。
「ぼくはずっと前から、あなたを知っているような気がしているんです」
リオウの優しい言葉にティルは応えられず、朝日が部屋を満たしていった。
軍を動かさねばならないとリオウは朝食もそこそこに屋敷を後にした。
それを静かに見送るティルに、グレミオは声を掛ける。
「ついていきたいんじゃないですか」
図星ではあったが、別に、と答えると自室へ引き上げた。
ベッドに転がると、紋章を見つめる。
お前なんてなければ、僕はもっと素直になれているんだろうに。
ソウルイーターに責任転嫁でもしなければ、ティルは自身の感情に踏ん切りをつけることが出来ないのだ。
紋章は沈黙している。