あるというならば

神話は見えない


まえもくじつづき





リオウの右手は、ソウルイーターを慈しむように暖かな輝きをにじみ出している。
ティルの頬を流れる涙を拭ったとき、この人の場所になれるかもしれない、とリオウは思った。
リオウの求めていた慈しむ存在。
あまり会話もせず、自分を嫌っていると思っていた相手にこんな感情を抱くなんて自分もおかしいと思う。
輝きの戻った、それでもなお悲しみにとらわれている瞳を持つ不老の少年。
なぜか懐かしい瞳。なぜかそばにいたい。
 
「僕たちは、紋章の感情に振り回されてるんだ。そうじゃなきゃ、こんなのおかしいよ」
「ぼくたちは、紋章の感情に同調してるってことですか」
 
ティルの口から出た言葉に、リオウは首をかしげた。
自身ももちろん不確かな感情は抱いている。誰かのそばにいたい、その悲しみを一緒に分かち合いたいと。
それが誰かはわからなかった。そして今、探していた存在はティルだと確信しようとしている。
紋章を手に入れる前から抱いていた感情が、今更間違いだというのだろうか。
 
リオウのよく分からないといった表情に気がついたのか、ティルは続ける。
 
「だって、夢を見ただろう、闇と、剣と、盾の、神話のような夢を」
 
そんな夢、見たことはなかった。
リオウはティルの言葉に首を振る。
 
「ぼくはただ、あなたのそばにいたいと思ったんです」
「それが……同調してるって言うんだ」
 
どうして感情はかみ合わないのか。
手をつないだまま、向かい合ったままうなだれるティルをリオウは見つめるだけだった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -