気付くことが出来るでしょうか
ほくそえみ
昨夜、グレミオはティルの部屋の扉が少し開いているのに気がつき、中の様子をうかがった。
そこには暗闇の中、ティルの手を握っているリオウの姿があった。
「どうされました? リオウくん」
小さな声で伺いたてると、リオウは小さく謝ってくる。
それを必要ない、と返し、グレミオはリオウの隣に腰を下ろした。
「うなされているようだったので、気休めに手を握っていたんです」
見れば、ティルの右手はしっかりとリオウの右手につながれている。その寝顔と、寝息は安らかだ。
自分がそうやってもうなされていたのに、と少々のねたみを思いながらも、
グレミオはふたりの関係を考えて暖かな気持ちになった。
グレミオは、キャロの街での孤児がコトを合わせてふたりだけであると以前テオから聞いていたことを覚えていた。
そのふたりが奇跡的に助かり、そしてリオウはティルの探し求めていた人物で、今、お互いがお互いを知らないはずなのに、こうした絆をあらわしている。
「起きないうちにぼくも宿に戻ろうと思うんですけど……」
グレミオが感慨深くふたりを眺めていると、リオウが申し訳なさそうな声を発してきて、その表情をのぞき込む。
「手が、離れなくて……」
「ああ……坊ちゃんの手、離すものかって感じですねえ」
「すみません、さわるな、っていわれてたのに……」
「いいんですよお、坊ちゃんのかんしゃくみたいなものだから」
ここで少し仮眠をとって宿に戻る、というリオウにグレミオは頷いた。
「あの、ティルさんにはこうしていたこと、言わないでください」
「どうしてですか?」
「さわるな、といわれてるのに、さわってるから、余計に嫌われちゃうでしょう」
眠りの中にいてもぎゅっと握りしめてくる手のひらを前に、嫌われている、以外の考えはないのだろうか、とグレミオはまっすぐすぎる少年の言葉に笑い、了承した。
そうすれば朝、ティルはここにリオウが居なかったかと訊ねてくる。
グレミオはなんだか愉快だった。
リオウがティルの探していたコトだと話してしまいたかった。
でもそれもかわされてしまい、ティルはさっさと一人で城に向かってしまった。
まあ、そのうち気付くでしょう。
グレミオはそう結論づけて、自分から話すことはやめようと思い、朝の食事の準備に取りかかった。