気付くことが出来るでしょうか
夢のぬくもり
ごうごうと風が鳴り、雨のたたきつける音が怖くて、少年は眠れなかった。
悲鳴のように聞こえるそれは、誰の悲しみなのだろうか。
幼い少年は独り寝におびえ、ベッドの中で身体を丸くしていた。
おそろしい、おそろしい、分け与えられた部屋が、自分が、一人だけそこに取り残されたような気がして心底恐ろしかった。
「眠れないの?」
そんなとき、いつも母親が廊下のあかりを連れて部屋を開けてくれる。
こうして手を握っていれば眠れるわ。一人じゃないのよ、と言ってもらって、
ようやく少年は落ち着いて眠ることが出来るのだ。
悲しく恐ろしい世界は、それだけで暖かく、優しい世界に変わった。
母親の膝枕で、眠れないときはいつも物語を願った。
母の紡ぐ物語はいつも同じだったけれど、それは気持ちよく少年を夢の世界へ誘う。
いつか、母親がはじめてしてくれた話を思い出す。
「鳳凰、って知ってる?」
「ほーおー?」
「神様の鳥。ほうおう、で一羽だと思われてるけれど、ほう、がオスでおう、がメス。お互いの鳴き声が一つの名前になっちゃったのよ」
「ふうん」
「オスがほうと鳴けばメスがおう、と答える。そうやって愛する人を見つけるのって、素敵だと思わない?」
「お母さん、どうして、そんなお話をするの?」
「お母さんもお父さんと、そうやって巡り会えたんだなあって思うと、とても嬉しかったからよ……」
母の柔らかな笑顔。それが最期の膝枕。