気付くことが出来るでしょうか

ふたり


まえもくじつづき




宿に釣り人と旅の兄弟が入ってきたとき、釣り人の従者である頬に傷をつけた男が
顔色を真っ青にして釣り人にすがりついてきた。
 
「ど、どうしましょう、坊ちゃん! コウくんが山賊に連れ去られてしまったんです!」
「それ、本当ですか!?」
 
いぶかしむ釣り人……ティルとは反対に、後から入ってきた二人連れの少年のほうが声を上げた。
 
「ええ、本当ですとも、この目で見ました! 生活のために子供をさらうなんて許せません、ねえ、坊ちゃん!」
 
ティルは少年の反応が気にかかり、すがりついてきた従者、グレミオを引きはがしながら、少年の元へ向かう。
 
「ねえ、君、なにか知ってるの?」
「はい……あの、ここにリオウがお忍びできてるって、コウはあなたを指して言いました。それは違うんじゃないのか、って言ったら、そこのお兄さんを引きつけておくから、その間に会ってみろって……」
 
ティルは反射的に少年の首に巻かれたバンダナをつかみあげ、乱暴に顔を寄せた。
鬼気迫る表情は、生気のない瞳にぎらりとした力を宿して少年を貫く。
 
「君のせいだ! コウに何かあったら、許さない!」
「やめて!」
 
甘んじてティルの罵詈雑言を受ける少年の後ろで、連れの少女が声を上げる。
 
「その子は、弟は何も悪くないの! 私がコウくんをからかったのが悪いの!」
「やめるんだナナミ。ぼくだって、それを止めなかった。一番の責任はぼくにあるんだ」
「言い分は立派だな。その小さい体で何か出来るとは思えないけど?」
 
続くティルの暴言に、少年は少しむっとした。身体的特徴をからかわれたのが気に障るらしい。
ティルはつかんでいたバンダナを乱暴に離し、その反動で少年の胸を押した。
後ろに下がる少年の体。手のひらに感じた感想は、思った通り薄かった。
 
「コウを助けに行く」
 
ティルの言葉に、グレミオは声を明るくして賛同する。
少年は体勢を整えてティルを見据えてくる。それはティルの中の何かをかき混ぜていく。
その感情がわからないティルは、少年が言葉を放つのを待った。
 
「ぼくも行きます」
「足手まといだ。君がなんの役に立つって言うんだ。僕には必要ないんだよ」
 
必要ない、と発したとたんに右手の闇が騒ぎ出した。
今の今まで静かだった魂を刈る唯一無二の真の紋章が、ここぞとばかりに悲嘆な声を上げる。
あまりの衝撃にティルは右手を押さえ、片膝をつく。
その嘆きは何かを欲しているかのようだった。
魂をほしがっているとでも言うのだろうか。
ティルは歯をかみしめ、その悲しみに耐える。
その姿は傍目から見れば何かの病気の発作に苦しんでいるように見え、
グレミオよりなぜか先に少年が手を伸ばしてくる。
 
「さわるな!」
 
それを言葉で遮ると、ティルはゆっくりと立ち上がる。
じりじりと紋章の力を押さえながら瞳に力を入れて姿勢を正す。
傍らでは少年が手持ちぶさたにつらそうな表情でこちらを見ていた。
なんで会ったばかりのお前がそんなにつらそうなんだよ!
ティルの中に久方ぶりの感情が宿る。不可解な少年の存在に、苛々していた。
 
「ぼくも行きます」
「……好きにすればいい」
 
まっすぐな少年の目に、もう何も言う気が起こらなかった。
少年は連れの少女にここで連絡を待つようにと伝えるとティルの後をついてきた。
ティルと並ぶように歩く少年は、道を迷うことなく歩き続ける。
 
「おい、お前ハイランド人だろ、ここのことわからないだろ、後ろからついて来いよ」
「大丈夫です」
 
大丈夫じゃないだろ、と反論してやろうかと思ったが、
少年の言うとおり、森の中に垂れ下がった縄ばしごの順番を理解し、けものみちを間違えることなく歩いているため、ティルは黙っているしかなかった。
 
「あ、あの人達です! 山賊ですよ!」
 
グレミオの言葉に、三人は走り出す。
ティルはどこにそんな力を隠していたのか、という早さで、逃げようとする山賊に追いつき、その首に武器である棍を巻き付けるように引っかける。
 
「お前ら、子供をさらっただろう、どこだ! 出せ! 返せ、返さないならこのまま首を折る!」
「ひ、ひいい!」
「何やってる、反撃しろ! そんな子供に怖じけつくんじゃねえ!」
「そ、そんなこと言ったって、この人は解放軍のリーダー、ティル・マクドールだし、後ろに控えてるのはルカ・ブライトを倒したって言う同盟軍のリーダー、リオウなんですよ!」
「な、なんだと!?」
 
ティルと少年はお互いに顔を見合わせる。その表情はどちらも驚きに満ちていた。


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