幾度泣けども君はなく

慟哭


まえもくじつづき




グレミオがやっとの事で身を起こしたのは、夕闇が大きい窓から差し込む頃だった。
もぬけの殻になっているはずだった隣のベッドが大きくふくらんでいるのを見て、
グレミオはおそるおそる声を掛けてみる。
 
「坊ちゃ〜ん、どうしました? おなかでも壊されましたか〜?」
 
布団にくるまっているティルは、グレミオの心配する言葉ですら針のように痛く感じた。
声を出せば叫んでしまうほどに苦しいティルは、グレミオに返事をすることが出来なかった。
 
「坊ちゃん? 本当にどうかしたんですか? お体の具合が悪いんですか?」
 
放っておいてくれ、と口に出すことが出来れば良かったのに、
それが出来ないが為にグレミオはしつこく心配する声を発してくる。
そんなことをする必要はないのだ、とティルは思う。察してくれと思うのに、グレミオはそれに気付いてくれる様子はなかった。耐えきれずティルは声に出した。
危惧していたとおり、叫び声になっていた。
 
「死んだ!」
「あ、あの、一体どうされて」
「死んだんだよ! あの子は殺されたんだ! 僕がここに来る少し前に! 僕がもっと早くここにいたら! 見つけてあげていたら!」
 
ティルの叫び声は途中から言葉にならないうめき声になり、ベッドは大きく揺れ動きだした。
その騒ぎに亭主が駆け上がってくる。
グレミオはその腕でしっかりとティルを抱きしめながら、心配しいぶかしむ亭主に心配ない、と穏やかな笑顔で応対した。
 
あの子は二度も裏切られたんだ、一度は国に、二度目は誰かもわからないものに!
どれだけ無念で死んでいったことだろう、
出来ることならこの右手で、君の魂でもいい、会うことが出来ていたら。
それすらももうかなわないなんて。君の名前を声に出すことも、君の姿を見ることも。
 
叫び声は落ち着き、激しい体の揺れも収まり、グレミオはティルを抱きしめていた腕をほどいた。
そこには視点の定まらぬ、生きる気力を無くした自我のもぬけの殻があった。


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