幾度泣けども君はなく

とまる、瞳


まえもくじつづき




昼も過ぎたというのに、グレミオはいまだベッドから起きられずにいる。
確かに峠には霧の化け物が三、四匹出てきたが、それだけでこの有様とは。
 
「としだな」
 
ティルは胸の内にでた結論を口に出した。
ベッドからはすすり泣く声が聞こえてきたが、ティルは気にも止めずに部屋を後にした。
 
街は穏やかで、子供も多く、避暑地として繁盛しているようだった。
生活している人々の旅人に対する対応も懇親丁寧だ。
良いところだな、とティルは改めて街に対する好意的な感情を思う。
けれど、違和感があった。
 
自分と近い歳の少年だけ、街には一人としていなかったのだ。
年月だけで考えればティルと同じ年齢であろう青年は居る。
見た目だけで考えると、どう探しても居ない。
 
街の隅には無人の道場があり、感じるはずの生活感はほこりをかぶっていた。
またその道場の反対側の隅にはユニコーン少年兵舎と名をうたれた石造りの建物があり、
こちらも同様に人の気配はない。
街の隅々まで見て回っても、やはり自分と近い少年は見つけられなかった。
ティルは思い切って奥様方の井戸端会議に声を掛ける。
 
「あの、すみません、人を探してて」
「あら、どなたをお探しかしら、アトレイドさん?」
「いえ、そうじゃないです」
「じゃあゲンカクさんかしら。でももう一年も前に亡くなってるし」
「その人でもないです。あの、なんて言ったらいいのか、僕と同じくらいの少年なんですけど……」
 
聞いた覚えのない名前を羅列していく奥様方は、ティルと同じくらいの歳の少年を捜している、と聞いてから表情を固く変えた。
異様な雰囲気に、ティルのほうも焦ってしまう。
 
「そりゃあ、来るのが遅かったねえ……」
「ど、どういうことでしょうか」
「あんたぐらいの歳の子はみんな街の自警団……ユニコーン少年兵部隊に入るのが普通でね、それが……」
 
その先の言葉が止まり、ティルの背筋に冷たいものが落ちていく。
 
「裏切り者の手引きで奇襲にあって、みんな死んじまったんだよ……」


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