幾度泣けども君はなく

君へ向かう道


まえもくじつづき




関所を設置する意味もないほどに危険な砂漠地帯を抜け、
ティルとグレミオはハイランドのキャロに向け足を進めていた。
 
「本当ならバナーからの船でのぼっていけたんですけどねえ」
「水門閉められてたんじゃしょうがないだろう」
「ちょっと待てば楽が出来たんですよー?」
「いいの! 僕は急ぎたいんだから!」
 
ティルはぶちぶちと愚痴り続けるグレミオをにらみつけ、足早に歩き続ける。
 
「あ、そっちじゃないです坊ちゃん」
「早く言えよそういうことは!」
 
顔を真っ赤にして怒るティルを見てグレミオは笑い声をたてる。
旅の疲れと共に恥ずかしさがいらいらへと変化していく。
それを知ってか知らずか、グレミオは続ける。
 
「ここからですね、燕北の峠を抜けていきます」
「誰か検問してるんじゃない?」
「そういうときは伝家の宝刀、ソデノシタですよ」
「ま、金だけは腐るほどあるからな」
 
声を低くして不機嫌を訴えるティルにグレミオは笑って言う。
 
「峠を抜ければすぐに目的地ですよ」
 
グレミオの言葉に、ティルは心を弾ませる。
 
「何だ、近いな!」
「え、そういわれれば近いかもしれませんけど」
「今日はキャロの街に着くまで宿は取らない!」
「いやちょ、それは無理ですってば坊ちゃん〜!」
 
二人のやりとりはキャロの街に着くまで続く。
 
キャロの街に二人が到着したのは夜も更けた、一日の変わる少し手前。
高地にあるというだけ外気は冷たく、夜空の色は鮮やかだ。
丁寧に優しい色で統一された石壁の建物と歩道。
この街にコトを預けたという父親のセンスに、ティルは少し鼻が高くなるのを感じた。
 
「ぼ、坊ちゃん、とりあえず今日は宿を取って、明日からコトちゃんを探しましょうね……」
 
声を出すのも疲れるといった様子のグレミオをティルは支え、宿屋へと向かう。
どのみち深夜で人捜しは不審がられるだけだ。
これから長年つきあうことになるだろう街に変な印象を与えたくない。
ティルはグレミオの提案に素直に従い、
深夜の客にも丁寧な宿の亭主に礼を言うと、久方ぶりの柔らかな寝床に期待を寄せて沈んでいった。


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