その場所を壊していく

休暇の端


まえもくじつづき




リオウは目覚めてからひとときの休暇をもらい、
ナナミと共に自分たちが守ったと言われる場所を歩いて回った。
交易所に積まれた塩をなめて顔をしかめるナナミに笑ったり、
民族衣装を着てはしゃいでみたり。
そうした楽しいひとときの隙間でリオウは右手の求める悲しみを探していた。
サウスウィンドウにも、ラダトにも、求めるものはなかった。
 
「リオウー! バナーで見かけた花飾り、買いに行こうよー!」
 
ナナミの言葉でラダトからバナーの村へ向かうため、川を下る船に乗り込んだ。
 
「わーわー、ただの遊びだけで船に乗ると楽しいよね! あ、なにかお土産とかかっていった方が良いかなあ」
 
ナナミの明るい声は楽しい。はしゃいでいるのに、なぜか心が落ち着いた。
リオウの右手の熱も川を下る途中で治まっていき、
あの悲しんでいる人はただの夢だったのだろうか、と早々にリオウは結論づけようとしていた。
 
バナーの村に着き、船員にお金を払っていると、以前出会った自分と似ている格好の幼い少年が走り寄ってくるのを目の端で見つけ、リオウはそちらに体を向けた。
 
「久しぶり! お兄ちゃん、リオウ将軍がルカ・ブライトを倒したって知ってる!?」
 
興奮した様子の少年は、同盟軍のリーダーに憧れているのだが、目の前の少年が当の本人だとは未だ気がついていない。そのことをリオウは訂正もしないし、教えることもしなかった。
自分がそうだと言って、少年をがっかりさせることもないだろう。
このはしゃぎようを見ていれば、誰だってそう考えるに違いない。
 
「コウ、よく知ってるんだね」
「そりゃそうだよ! きょーおーじっていうすごく強くて怖い人を倒しちゃうんだ! みんなもう知ってるよ!」
 
頬を紅潮させ熱弁をふるう姿にナナミと笑っていると、コウは不思議なことを話し始めた。
 
「でね、そのリオウ将軍が、僕んちの宿に泊まってるんだよ!」
「え? え? え? ど、どういうこと?」
 
リオウより先に反応したのはナナミだった。
不安がる表情のように見えるが、
おもしろそうだと首を突っ込みたがっているのがリオウには痛いほどよく分かった。
 
「本人はティルって名乗ってるけど、僕はその人がリオウ将軍だと思う!」
 
コウの言葉に、それはただの勘違いだ、と結論づけたナナミががっかりしたように腰に手を置いた。
 
「なんだよ、ぜったいだもん! 赤い服にバンダナだし、話をしようとしても黙ってるんだ、あれは絶対お忍びできてるんだよ!」
「えー、コウくんと同じでコスプレかもしれないよー?」
「ちがうもん! 顔に傷をつけたお兄ちゃんが付き人で居るんだよ? そもそもあの人が話をさせてくれないんだから!」
「話をさせてくれないなら、確かめようがないよねえ〜」
 
ナナミのからかう言葉に、コウは一芝居を打って出たのだった。


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