その場所を壊していく
知っている誰か
リオウは右の手のひらに、いつか触れたような悲しみが通り過ぎていくのを感じて目を覚ました。
そこは狂皇子との決戦の舞台でも、凱旋の熱気に包まれた城の入り口でもなく、綺麗に整えられた部屋だった。
だが今いる場所が自室として与えられたところだとリオウは理解するのに時間がかかった。
彼の見ていた世界は、
真っ暗闇の中、嘆きむせび悲しむ人と、それをただ見つめるだけの青白い光だったからだ。
誰かが悲しんでいるのは間違いないのだが、それが誰なのかリオウにはわからなかった。
ナナミでもなければ、ジョウイでもない。
全く知らない人かと言えば、そうではない。
では誰なのかと思い直せば、誰でもない。
だけど、それはリオウの求めていたものなのだ。その深い悲しみに触れること。
そして寄り添ってあげること。
自分の生きている意味が、右手からあまたもの光の筋となりリオウを貫いた。
そして少年は、そこが自室であると改めて理解した。
反応のない自分に慌てふためいているフリード達を落ち着かせている間にも、右手の紋章はじりじりと熱さを増していた。
それは先ほど見ていた悲しみの元へ急げと言うように、リオウの温度を上げていく。
でも、一体どこへ行けばいいのだろう?
しなければいけないことはわかっているのに、どうすればいいのかわからない焦燥感。
リオウは右手を握りしめると、その場にいた人々に笑いかけた。
「ぼくはもう大丈夫」
みんなの場所を守ること、誰かの悲しみをぬぐうこと。
自分の今ここにいる理由がわかったのだから。
「ぼくはもう大丈夫だよ……」
抱きついてきたナナミをあやしながら、リオウはもう一度笑顔を浮かべた。